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【識者の眼】「働き方改革は産業保健の視点で」島田和幸

No.5135 (2022年09月24日発行) P.56

島田和幸 (地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)

登録日: 2022-08-30

最終更新日: 2022-08-30

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「医師の働き方改革」は、地域の医療提供体制を損なわずに、医師の勤務時間、特に24時間365日救急診療を受け持つ急性期病院に勤務する医師などの時間外勤務を、法的規制内に制限することが主たる課題となっている。法的規制と言っても、時間外勤務が通常で月80時間以内、それが無理なら月155時間以内まで認められている。他の産業界では過労死の基準をはるかに超える許容水準であり、相当の“ゆるふん”規制と言ってよい。逆に言えば、そうでないと働く医師がいなくなり、地域医療は保持できないと見越した結果の時間設定ではないだろうか。しかし、この寛大な基準さえ、「働き方改革」は「病院の機能分担と集中化」や「医師の地域偏在対策」と同時並行する、いわゆる三位一体改革でないと達成できないと言われている。しかし、後の2つは利害関係者が錯綜しており、基本的には経営主体が自分独自で操作できる労働時間管理と比べて、遙かに難しい問題である。3元連立方程式を一挙に解くことは、不可能に近い。しかし、今さら規制が撤廃されることはありえないので、結果として不完全な医師の勤務時間管理にならざるをえない。

本来、医師の長時間労働規制の目的は、「心身の健康管理」とそれに関連して「医療安全の確保」であろう。だとすれば、他産業界に比べ遅れている「病院という事業場の産業保健活動」の強化が本旨であろう。たとえ、時間外勤務の法的規制をクリアしても、それだけでは、まったく問題の解決にはなっていない。長時間労働の医師に対する面談や健康チェックは必須であろう。労務管理や安全衛生管理のみならず近年増加するメンタルヘルスの問題、復職支援や健康管理などを含めた総合的な産業保健のマネジメントが導入されるべきである。

現在、従業員数1000人以上の事業場で専属産業医の配置が義務となっている。しかし、本院のような数百人規模の病院でも、「産業保健」の専門資格を持った専任もしくは併任の医師や看護師、カウンセラーなど複数のスタッフを配置し、人事課職員と連携して“ヘルシーワークプレイス”をめざすことを現在考えている。

島田和幸(地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)[医師の働き方改革][産業保健][ヘルシーワークプレイス]

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