株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「医療と介護の場の連携と分担〜生活と治療の場は異なるものだ〜」武久洋三

No.5130 (2022年08月20日発行) P.62

武久洋三 (医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)

登録日: 2022-07-20

最終更新日: 2022-07-20

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日本の高齢化はとどまることを知らない。現在の日本を戦中や戦後の荒廃から、一生を賭してここまで回復させてくれた中心年代の人たちの人生の終わりを私たちは診させてもらっている。

現在、高齢者の死亡年齢の最頻値は、男性が87歳、女性が93歳まで延びている。つまり80歳でも終末ではないのだ。100歳以上の高齢者がやがて50万人に達する頃に、医療と介護はどのように連携し、どのような役割分担をすればよいのか。

「介護施設の入所者等は症状が急変してもわざわざ病院に搬送することもないのではないか。もう十分生きてきたし、今でも病気の後遺症もあり、要介護状態なんだから、ここでそのままでいても十分じゃないか」と思っている人も多いだろう。しかし医療とは病気の人を治療して治すことである。介護は病気などによって障害された人の生きていく過程の生活を支えることである。その介護の現場で医療スタッフがほとんどいない環境でできることは限られ、治療効果として満足のいく結果は得られない。

逆に、介護ケアがほとんどない現在の急性期病棟で治療をしても、病気は治ったとしても、介護の必要な状況に陥ってしまっている。しかし、一度介護施設に入所してしまうと、少々の病状悪化では、病院に紹介して、適切な治療がなされていることのほうが少ないように感じている。

高齢者は多くの病変に侵される割合が高い。しかしその度に、適切な治療が行われることによって、多くのリスクを克服して、また元気になれる人も多い。

医療の場と介護の場をより密接なものとし、それぞれの専門性を評価する。そして病院には介護ケアを取り入れ、介護の場では病状が変化すれば直ちに病院へ搬送し、入院加療して短期間で元の施設に戻る。こうした病状に応じてそれぞれの機能に合った場所を細かく行き来してもらうほうが、確実に患者の状態は良くなり、有意義な余生を送れる可能性は高い。

生きられる可能性のある人は、現在の医療でサポートできる体制をつくっていかなければならない。結局そのほうが医療と介護にかかる総費用が少なくて済む可能性が高い。もう一度立ち止まって考えてみよう。

武久洋三(医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)[100歳以上50万人時代]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top