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【識者の眼】「行き過ぎたマーケティング戦略の功罪」大野 智

No.5123 (2022年07月02日発行) P.57

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2022-06-13

最終更新日: 2022-06-13

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「同年代で同じ悩みを抱えている人が勧めているサプリ」

「モデルが愛用しているとSNSに投稿していた化粧品」

このような経験談に基づく情報は健康食品・化粧品などで目にすることがよくある。事実、消費者庁が行った調査では、第三者の体験談・口コミ・レビューは、消費者の約9割が「大変参考になる(29.1%)」「ある程度参考になる(58.4%)」と回答している1)

その背景には、人が持つ心理効果を狙ったマーケティング戦略がある。

ウィンザー効果:利害関係のない第三者が発信した情報は信憑性が増すという心理効果。口コミなどは、まさにこの効果を狙ったもの。

吊り橋効果:同じ悩みを抱えている人が発信した情報は身近に感じるという心理効果。その結果、連帯感を抱かせ購買意欲を後押しする。

ハロー効果:優れた特徴に影響されて、それ以外の部分の評価を偏らせてしまう心理効果。“美しいモデルが愛用しているのであれば、美容効果も高いだろう”といった認知の歪み。

しかし、このような心理効果を悪用しているケースが後を絶たない。たとえば、消費者による経験談だと思わせておきながら実は架空・虚偽のものだった(参考:No.5072)、自身が愛用しているかのようにSNSで情報発信しておきながら実は企業から広告料をもらっていた、などである。これらは“ステルス・マーケティング”として社会問題にもなっている。メディアによって報道され多くの人が知ることになった影響もあってか、冒頭で紹介した消費者庁の調査では、約9割の人が「参考になる」としていた第三者の体験談・口コミ・レビューも、実は企業から金銭をもらって書かれたものである場合には、「参考なる」と回答した人の割合は約3割まで減る1)。そうなると、正真正銘の体験談であっても、いずれは疑惑の目を向けられかねない。

ちなみに、EUや米国ではステルス・マーケティングは明確に法律で禁止されている2)。しかし、日本においては法整備が遅れており、広告・マーケティング業界の自主規制に留まっている。企業あるいはインフルエンサーなどの個人においては、自分の首を絞めることになりかねないステルス・マーケティングは厳に慎むべき行為と肝に銘じてほしい。

【文献】

1)消費者庁:アフィリエイト広告等に関する検討会 報告書(2022年2月15日).

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/review_meeting_003/

2)消費者庁:第3回 景品表示法検討会(2022年5月12日)「資料2.海外における広告規制の現状」.

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/assets/representation_cms212_220511_03.pdf

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法

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