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【識者の眼】「高齢者に安全優先の抗不安薬」上田 諭

No.5122 (2022年06月25日発行) P.60

上田 諭 (東京さつきホスピタル)

登録日: 2022-06-02

最終更新日: 2022-06-02

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一般診療の中で、高齢者の不安や不定愁訴に最も使われてきた向精神薬は、おそらくエチゾラム(商品名:デパスなど)であろう。大半の抗不安薬と睡眠薬と同様、ベンゾジアゼピン系と言われる薬剤で、即効性があり抗不安効果は比較的しっかりしている。しかし一方、筋弛緩作用によってふらつきや転倒の原因になり、依存性を持つ。医師の多用が問題になり、数年前まで長期処方可能だったエチゾラムは、現在、最大処方日数が30日に制限されてしまった。

さらに、高齢者では催眠作用が認知機能障害やせん妄の原因になりうるという大きな問題もある。エチゾラムに限らず、ベンゾジアゼピン系薬剤は言わば「高齢者の敵」であり、頓用などの使用を除けば、高齢者には極力処方を控えるべき薬剤なのである。

では、より安全な抗不安薬はないか。その候補として、セロトニン作動薬であるタンドスピロン(商品名:セディールなど)がある。ベンゾジアゼピン系のような即効的な切れ味はなく、効果を発揮するまでに日数のかかる遅効性の薬であるが、すぐれた点はベンゾジアゼピン系薬剤の欠点である筋弛緩作用や依存性、催眠作用が少ないことだ。高齢者で心配される薬剤誘発性のふらつきや転倒、処方薬依存、認知機能障害を生じる心配がほぼないのである。不安と心気・身体症状にだけでなく、認知症の行動心理症状(BPSD)に対する効果の報告もある。認知症に対しては、遅効性でなくすぐに鎮静がかかる症例も見られる。

タンドスピロンは不安とBPSDに対し1つの選択肢になりうる薬剤と思われる。ときに副作用として嘔気と食欲低下が生じることがあるので、注意は必要である。

上田 諭(東京さつきホスピタル)[高齢者医療]

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