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【識者の眼】「WHOによる人工妊娠中絶への新たなガイドライン、遠隔医療も推奨項目に」重見大介

No.5122 (2022年06月25日発行) P.56

重見大介 (株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)

登録日: 2022-05-24

最終更新日: 2022-05-24

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2022年5月8日に、世界保健機関(WHO)は人工妊娠中絶に関する新たなガイドライン(Abortion care guideline)を発表した1)。本ガイドラインの目的として「中絶に関するWHOの勧告とベストプラクティスの声明一式を提示する」「各国で法律、規制、政策、サービス提供の状況は異なる中でもエビデンスに基づいた意思決定を可能にする」ことと書かれており、決して日本も対象の例外ではないことがわかる。また、「本ガイドラインは、中絶ケアに関する過去のWHOガイドラインを更新し、置き換えるもの」とも書かれており、母子保健に関わる医療従事者は目を通しておくべき資料だと言えるだろう。

本ガイドラインでは、中絶の45%は安全に行われておらず、安全でない中絶の97%は発展途上国で起こっていると推定されており、中絶処置に伴う死亡率を考慮すれば、日本とここで挙げられている発展途上国を同列にして考えるべきではないだろう。しかしながら、日本の現状に対しても参考にすべき点が多く記載されている。たとえば、「質の高い中絶医療へのアクセス」に関しては、推奨項目として「様々な医療提供者による業務の分担、経口中絶薬へのアクセスを容易にすること、正確な中絶ケアに関する情報へのアクセスを提供すること」が含まれている。

加えて、「中絶ケアと家族計画サービスへのアクセスを確保するための遠隔医療の活用」が初めて盛り込まれている点も注目に値する。近年、中絶ケアに対する遠隔医療の有効性や安全性について知見が蓄積しており、総じて有益かつ安全性が高いと評価されている2)。日本では遠隔医療自体の普及がまだ未熟であるため早期の中絶ケアへの実装は困難であると考えられるが、国際的な潮流や知見を把握した上で議論が進むことを願う。

なお、日本でも2021年12月に経口中絶薬の製造販売に関する承認申請が出されている。実際に承認されるかどうかや、承認の時期などについては未定だが、米国では中絶処置の中で薬剤が全体の約4〜5割、英国では約7割を占めている。また、英国では薬剤による中絶処置のうち約4割が自宅での服用となっている。こうしたデータを参考にしながら、日本における「安全な中絶ケア」がWHOの推奨基準を満たすことを期待したい。

【文献】

1)World Health Organization. Abortion care guideline.

   https://www.who.int/publications/i/item/9789240039483

2)Endler M, et al:BJOG. 2019;126(9):1094-102.

重見大介(株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)[母子保健][経口中絶薬]

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