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【識者の眼】「研究への患者・市民参画(PPI)は対話と相互理解の過程」天野慎介

No.5118 (2022年05月28日発行) P.54

天野慎介 (一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)

登録日: 2022-05-06

最終更新日: 2022-05-06

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海外では医学研究への患者・市民参画(PPI)が進んでいることを受け、2018年3月に閣議決定された国の第3期がん対策推進基本計画では、「患者及びがん経験者の参画によって、がん研究を推進するための取組を開始する」「国は、研究の計画立案と評価に参画可能な患者を教育するためのプログラムの策定を開始する」とされた。

これを受け、日本医療研究開発機構(AMED)では「患者・市民参画(PPI)ガイドブック」を作成し、ホームページで公開した。筆者もその作成に関わったが、ガイドブックではPPIを「医学研究・臨床試験プロセスの一環として、研究者が患者・市民の知見を参考にすること」と規定され、「患者等にとってより役に立つ研究成果を創出する」「医学研究・臨床試験の円滑な実施を実現する」「被験者保護に資する」ことがその理念とされている。

国内では、がん領域における代表的な研究グループのひとつである「日本臨床腫瘍研究グループ」(JCOG)や、進行固形がん患者を対象とする遺伝子解析プロジェクトである「MONSTAR-SCREEN-2」などにおいて、PPIの取り組みが進んでいる。JCOGでは、臓器別の研究グループにおいて臨床試験のコンセプト段階から、患者を交えてディスカッションを行ったり、臨床試験についての基礎的な講義などで構成される「患者・市民セミナー」を開催したりしている。

たとえば乳がんグループでは、化学療法を行って完全寛解が得られた場合、手術が省略できるかを検証する臨床試験を研究者が計画したが、意見交換では乳がんの患者たちから、手術の負担軽減も大切ではあるが、患者としては5年から10年かけて行われるホルモン療法の負担が大きく、これを省略できる試験はできないか、との提案があったという。研究者が考えるニーズと患者が求めるニーズは合致しない場合もあり、これをすり合わせることもPPIの重要な役割である。

「研究の計画立案と評価に参画可能な患者を教育する」試みとしては、日本癌治療学会や日本臨床腫瘍学会、日本癌学会において、学術集会などに合わせて患者参画プログラムが設けられている。また、2021年には国内におけるPPIの推進や人材育成に貢献することを目的として「一般社団法人 PPI Japan」も設立されている。

PPIは、患者が一方的に自身の意見や考えを伝えるものではなく、研究者も患者の意見や考えを一方的に取り入れなければならないということではない。PPIは、研究者と患者の対話の過程であり、相互理解の過程でもある。

天野慎介(一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)[第3期がん対策推進基本計画

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