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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『オミクロン株感染は何だったか』」鈴木貞夫

No.5115 (2022年05月07日発行) P.56

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2022-04-25

最終更新日: 2022-04-26

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デルタ株感染が一段落ついた段階で、急速にオミクロン株への置き換わりが進み、新型コロナ対策の枠組みが大きく変化した。ここではオミクロン株の特性と、各国の現状を見ながら、今後について考察する。

当初より、新型コロナウイルスは変異を起こしやすく、それが予防対策上のネックになると考えられていた。デルタ株は、従来株より重症化しやすい傾向はあったものの、ワクチンが有効であったため、日本では第5波は収束し、「凪」の期間は長く、感染者も少なく、死亡はゼロの日もあった。しかし、第6波は沖縄県での米軍がらみの感染爆発という形で突然上陸した。

オミクロン株の最大の特徴は感染力の強さである。デルタ株までは、人口100万対で高くても2000までという相場感があったが、オミクロン株ではイスラエルで1万超えも観察され、東アジアでも、韓国や香港でのピークは約8000まで上昇した1)。日本も、それまでは200を超えたことはなかったが、750まで上がり、東京都や大阪府では、それぞれ1300、1500を超えた2)。また、水際作戦で感染防御に成功していたオセアニアや、中国各地でも高値を示している。1桁を続けてきた台湾も例外ではなく、実効再生産数は1.7から下がらない。このまま下がらなければ5月上旬には1000を超える勢いである。

その一方で、死亡リスクは低く、累積致死率は低下を続けている。対人口死亡者数の断面データで見ても、デルタ株まで多くの死亡を出した欧米各国では、オミクロン株による死亡は、過去のものに比べると低い。日韓などでは、オミクロン株による死亡が過去最多になっているが、これは感染者が何倍にもなったからである。

オミクロン株には、それまでの株に比べてワクチンの効果が低いということも言われている。確かにブースター接種の進んでいる韓国などでも、目に見えて有効な感染防御はできなかった。しかし、死亡の予防には有効ということは、韓国と香港が同じような感染状況(ピーク値が7900 vs. 8700)で死亡に大差がある(同じく7.0 vs 37.7)ことからも見て取れる。ただし、ワクチン効果はゼロか1かではなく、確率的なものなので、「感染予防効果はない」と言うためには、個人データに基づく解析が必要である。

オミクロン株後は、新たな変異に注意しながら、少しずつ出口戦略を探っていく必要があると考えている。

【文献】

1)Our World in Data:country profiles.

   https://ourworldindata.org/coronavirus#coronavirus-country-profiles

2)NHK特設サイト:新型コロナウイルス, 都道府県別の感染者数.

   https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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