No.5114 (2022年04月30日発行) P.59
和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
登録日: 2022-04-19
最終更新日: 2022-06-01
デルタ株が主流だった昨年末はありえた対応かもしれないが、オミクロン株の出現によりワクチンの効果の限界や感染の広がりやすさから、ワクチン接種記録を活用することの効果や目的を再考しなければならない。欧州などでも以前はカフェなどの飲食では活用していたが、現在は活用していない。
結論からいうと、筆者は、今の日本の状況を踏まえると旅行やイベントなどへの参加において事業者がワクチン接種記録を確認することが必要とは考えない。その理由を以下に示す。
ワクチン接種をもとに、3つのグループに分けられる。①ワクチン2回接種をしていない、②ワクチン2回接種した(3回目はまだ)、③ワクチン3回接種した。ワクチンを3回接種して3カ月も経過すると発症予防効果はオミクロン株に対しては徐々に低下することが確認されている。そのため、発症予防だけを考えると3つのグループに大きな差があるとは言えない。一方で、感染した場合の重症化予防の効果については、差がある。ただ、接種をされていない方はそのリスクを容認して日常生活を送られていることが想定される。
では、事業者はワクチン接種をしていない人が感染した場合の重症化リスクまで考慮する必要があるのか? 旅行やイベントはあくまで自主的な活動であることや、既にワクチンは待たずに接種できることから、事業者に過度な責任があるとは考えられない。必要だと考えるなら、「ワクチン接種をして参加ください」などの呼びかけを記載するかであろう。
感染対策は、事業の継続のためにも、参加者や地域との信頼関係のためにも一定の対応が必要である。ただ、そこで発生した感染のすべてが事業者の責任というわけにはいかないだろう。飲食を共にするような家族であったり、同一グループの参加者間での感染対策の主体や責任は本人たちであろう。異なるグループ間の感染については事業者にある程度の感染対策が期待されるが、参加する方にも協力が期待される。
最後に、接種記録の活用を3回目接種のインセンティブにする意見もある。自治体でくじ引きに参加できたり、店で割引を受けられるということまで否定しているわけではない。
なお、検査の活用については別途考えをまとめたい。
和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス感染症]