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【識者の眼】「論文博士問題再考」岡本悦司

No.5117 (2022年05月21日発行) P.62

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)

登録日: 2022-04-11

最終更新日: 2022-04-11

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昨年8月14日付けの本誌(5077号)で「論文博士を廃止せよ」といささか大胆な提言をした。大学院を経ることなく、いきなり博士号を取得できるという国際的にも類例のないわが国独自の制度は歴史的役割を終えたのではないか、と問題提起したのだが、エビデンスを示して実証したわけではない。大学入試については倍率や偏差値等の情報が溢れているが、大学院や博士となると全国全分野を網羅したデータは乏しい。

そこで、国立情報学研究所が公表する博士論文データベースより1991年以降の約40万件を分析した結果を刊行した。その内容は下記を参照していただきたいが、論文博士の問題は分野別にみると医学界に最も関連することがわかったので報告したい。

第一に、博士授与数に占める論文博士の割合(以下、乙割合)は一貫して低下し、30年前は60%もあったのが現在では10%にまで低下した。第二に、博士(甲乙共)授与数は集中が激しく上位7大学(=旧7帝大)だけで33.3%と約1/3を占める。30年間で大学も大学院も急増したが、一握りの大学への集中は揺るぎないことがわかる。

第三に、乙割合は分野ごとに大きな差があり「保健」分野は35.1%と大分類中最も高かった(反対に「理学」分野では乙割合は12.4%にすぎない)。そして最後に、乙割合は医系大学でも大学間格差が大きく、私立医科大学に突出して高い大学がみられた(最高は60.5%という大学も)。医系大学でも東京医科歯科大学のような大学院重点化大学では乙割合はわずか6.8%にすぎないことを考えると、格差は甚だしい。

大学院博士課程の設置には厳格な審査があり、担当できる教員(マル合教員と呼ばれる)の数に応じて定員が定められる。ところが定員1人でも博士課程を設置すれば10人、20人に論文博士を授与することも可能、とは制度的な矛盾であろう。

拙論は博士号授与状況を定量的に分析した初のものであり、論文博士の問題は医学界に突きつけられた課題でもある、ということを明らかにした。

【参考】

▶岡本悦司, 他:福知山公立大学研究紀要. 2022;6(1):1-17.

 https://fukuchiyama.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=407&item_no=1&page_id=13&block_id=21 

岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)[博士号授与状況]

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