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【識者の眼】「コロナ禍における『かかりつけ医機能』の維持・向上が今後の地域医療の基盤になる」松村真司

No.5112 (2022年04月16日発行) P.60

松村真司 (松村医院院長)

登録日: 2022-04-04

最終更新日: 2022-04-04

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2022年3月21日、まん延防止等重点措置がすべての都道府県で解除された。新規感染者数は減少傾向にあり、医療提供体制への負荷も改善されている。しかし、現場感覚としては、地域で一定の流行が続いている現時点の行動規制の緩和は、早期のリバウンドが危惧されるところである。最前線の医療機関にとって緊張を強いられる状況は当分の間続きそうである。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに対して、医療機関、特に地域の多くの医療機関は、限られたリソースの中、懸命に対応してきた。当院も、地域の他の医療機関と同様、何とか発熱外来を設置し、検査体制を整え、保健所や地域の他の医療機関をはじめとする関係各所と連携し、できる限りの対応をしてきた。もちろん改善すべき部分は多くあるものの、診療科にかかわらず、時には休日を返上して取り組んできた無数の医療者が日本の隅々にまでいることは忘れてはならない。

一方、このパンデミックはわが国の地域医療が抱える脆弱な部分もまた明らかにした。その1つが、通常医療の制限である。がん診療、回復期医療、救急医療に焦点があたることが多いが、多くの地域の診療所がこれまで当たり前のように提供してきた通常医療であるプライマリ・ケアへのアクセスもまた大きく阻害されている。当院でも、受診控えは顕著であり、慢性疾患患者の通院間隔は伸び、電話診療・オンライン診療はこの間拡大している。N95マスク越しでのコミュニケーションでは患者さんの背景までなかなか聞くことはできない。密になることを恐れ、これまで行ってきたような地域での活動もままならない。コロナ禍以前のプライマリ・ケアは提供できなくなっているが、何とか工夫しながら継続しようと日々努力をしている。

東京慈恵会医科大学の青木拓也講師らのグループが行った研究結果はこのような状況を示しているものであり、注目に値する。これらによると、パンデミック拡大後には医療機関への通院が、特に高齢者で著明に減少したが1)、かかりつけ医、特にかかりつけ医機能を有する医療機関へ通院している住民ほど、コロナ禍においても受けている予防医療の質は高かった2)とのことである。かかりつけ医機能、すなわち近接性、包括性、継続性、連携性、地域志向性というプライマリ・ケア機能を、わが国の医療機関、特に地域の診療所が、デジタルトランスフォーメーション(DX)をはじめとした技術革新と適切な制度的支援によって、いかに維持・向上させていくか、そしてそのための具体的な活動をいかに行っていくかが、今後の地域医療の基盤になると思われる。

【文献】

1)Aoki T, et al:J Gen Intern Med. 2022;1211-7. https://doi.org/10.1007/s11606-022-07422-7 

2)Aoki T, et al:BMJ Open 2022;12:e057418. https://bmjopen.bmj.com/content/12/3/e057418.long

松村真司(松村医院院長)[新型コロナウイルス感染症][プライマリ・ケア機能]

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