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【識者の眼】「変異ウイルスへの検疫での対応に見るこれからの危惧」和田耕治

No.5095 (2021年12月18日発行) P.54

和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)

登録日: 2021-12-07

最終更新日: 2021-12-07

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変異ウイルスは今後も出現し、島国である日本は、水際でできるだけ止めたいという国民の期待も強く、流入した場合には「失敗」のように受け止められるようになる。しかし、あくまで、主流となるウイルスであれば検疫は国内への流入に向けて「時間稼ぎ」にすぎないことは多くの方も理解されるようになってきた。

現在は、オミクロン株について不明なことが多い(特に病原性)ということで、感染者と同じ航空機の搭乗者全員を濃厚接触者としている。しかし、そろそろ「国内で市中感染やリンクのわからない症例が見つかった」ということも想定していかなければならない。

その際、「○○県でオミクロン株見つかる」と大騒ぎになるのだろうか。個人情報が特定されたり、多くの方を濃厚接触者とする対応にもなりえるわけである。これが年末前の東京などの都市で見つかった場合には、フライトのキャンセルや、地方都市への移動の中止など、にもなりえる。

政府としての毅然とした対応は、新型コロナ対策の姿勢を示し、かつ、国民を少しでも不安にさせないようにすることであるはずである。しかし、今のままではオミクロン株に対する不安を高め、差別・偏見にもつながるような事態を想定しなければならない。

たとえば、重症度がわかってきたり、国内での事例が出た場合には「こうした対応に切り替えます」といったことも示していかなければならない。どうも国境にばかり目が行っていることを大変心配している。自治体もそろそろ自分の都道府県で見つかった際の伝え方を考えておかなければならない。

デルタ株の際の教訓は、検疫で、インドなどからの訪問者の陽性例が多く出ているにもかかわらず、WHOが懸念される変異株(VOC)としなかったことから厳しい対応が遅くれたことだ。検疫という国の現場から得られているデータを活用して対策ができなかったことが課題であった。また、その判断をする意思決定の体制も不明確であった。

さて、当然ながら今後、国境を徐々に開いて行く際にも水際対策をどう国民に理解をしていただくか。国内である程度広がるまで厳しくするのであれば、数カ月は厳しくしなければならない。それで日本社会や経済は持ちこたえられるのか。

こうしたことも考慮して、今後の対策を検討しなければならない。

和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス感染症]

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