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【識者の眼】「注目される筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」片岡仁美

No.5094 (2021年12月11日発行) P.65

片岡仁美 (岡山大学病院ダイバーシティ推進センター教授、総合内科・総合診療科)

登録日: 2021-12-06

最終更新日: 2021-12-06

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筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome:ME/CFS)が最近話題である。元々ME/CFSの3割程度が感染を契機に発症するとされるが、COVID-19罹患後症状で倦怠感を呈する場合が多く、その一部はME/CFSの診断基準を満たすことが報告されており、注目されているのである。COVID-19罹患後症状を有する患者の約10%がME/CFSの診断基準を満たすと推定する報告もある1)

ME/CFSは、高度の全身倦怠感、易疲労、軽微な労作後に著しく遷延化する疲労感、全身広範囲の疼痛、微熱、咽頭痛、リンパ節腫脹、起立困難などの様々な身体症状に、思考力・集中力・注意力の低下等認知機能障害や精神症状、睡眠障害などの種々の症状をきたす疾患である。多くの場合、感染症や生活環境ストレスを契機に発症するが、経過は慢性的であり社会生活が困難になることもままある2)。病態については不明なことも多いが、脳内のミクログリアの活性化等様々な機序が解明されつつある3)

わが国における実態調査は1999年と2012年に厚生労働省の研究班で行われ、ME/CFSの患者数は約12万〜36万人と推定される。しかし、疾患の認知度は決して高いとは言えず、診断や治療に至らず苦しむ方が多く存在していることが示唆される。外来においても「もっと多くの方にこの病気を知ってほしい」と訴える患者さんの多さが印象的である。

ME/CFSには米国CDCの診断基準(1994)、カナダの診断基準(2003)など複数の診断基準が存在しているが、これらは病因・病態を解明することを目的に作成された研究用診断基準である。プライマリ・ケアを担う医師が現場で用いる診断基準には簡便性、利便性が求められることを鑑みて、わが国におけるME/CFSの臨床診断基準が2017年に発表された4)。同診断基準では著しい疲労や不眠を軸とした自覚症状が中心となるが、起立性調節障害については客観的評価が可能であり、起立試験を行うことが重要である。また、倦怠感を主訴とする他疾患の除外が必須である。患者さんへの情報提供にはME/CFS療養生活の手引き5)が有用である。今後ME/CFSの診断や治療を行うことができる医療機関が増えること、医療機関間の情報共有などのネットワーク構築が期待される。
(本稿の詳細は「提言:COVID-19後遺症の診療体制の構築を急げ─ME/CFSの診療経験から学ぶ」に掲載)

【文献】

1)Komaroff AL, et al:Front Med(Lausanne). 2021;7:606824.

2)倉恒弘彦, 他, 編:専門医が教える筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群診療の手引き. 日本医事新報社, 2019, p1, 20.

3)水野 敬, 他:総合医療. 2020;30(7):805-8.

4)伴信太郎, 他:日本疲労学会誌. 2017;12(2):1-7.

5)CFS(慢性疲労症候群)支援ネットワーク:ME/CFS療養生活の手引き. 

   [https://cfs-sprt-net.jimdofree.com/

片岡仁美(岡山大学病院ダイバーシティ推進センター教授、総合内科・総合診療科)[ME/CFS]

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