株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「繰り返される虐待死」小橋孝介

No.5088 (2021年10月30日発行) P.58

小橋孝介 (松戸市立総合医療センター小児科副部長)

登録日: 2021-10-06

最終更新日: 2021-10-06

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

大阪府摂津市で3歳の子どもが同居する母の交際相手からの虐待で亡くなった。このような事例が後を絶たない。2018年の目黒、2019年の野田、札幌とその検証の中で指摘されてきたことが十分活かされないまま、再び同じようなことが起こってしまった。

今回の親子は、もともと要支援児童として市の家庭児童相談課が関わっていたようである。また、死亡の数カ月前に虐待に関する相談を市は受けていた。しかし、結果的に子どもの命は失われた。虐待死は繰り返される。なぜなのだろうか。

実感として、世の中の子ども虐待に対する感度は10年前に比べ良くなってきていると感じている。より早い段階で、子どもやその家族に関わる「心配」が共有され、早期の支援や対応につながっていることも徐々に増えている。子ども家庭総合支援拠点の設置、体罰の禁止やヤングケアラーへの対応の推進など、国の施策も、死に至るような重篤な虐待の予防につながるものが目立ってきている。

このような中で問題となってきている点のひとつに、市区町村が行っている支援的な関わりから、児童相談所が行うような一時保護などの介入的対応へのギアチェンジの難しさがあるように思う。関係性が構築されてしまっているからこそ、その関係性を崩す可能性のある行動が取りにくくなってしまう。

子どもと家族に支援的に関わっていると、いつの間にか中心が、本来中心にあるべき子どもから、その養育者に移ってしまっていることがある。「あのお母さんはこれだけ頑張って子育てをしているんだから」「あのパートナーはもう二度と子どもを叩いたりしないと目を見て言ってくれたから」。何か心配な情報が入ると、人はその心配を打ち消すような情報を探す生き物である。今回も、もしかしたらそうだったのかもしれない。そして、子どもを守る最後のチャンスも失われてしまった。

子どもを中心に考えること、「チャイルドファースト」は、我々のよって立つべき子ども家庭支援の原点である。どんな状況であれ、今回のような死亡を防ぐためには、この原点を忘れずに判断、行動しなければならない。

小橋孝介(松戸市立総合医療センター小児科副部長)[子ども虐待][子ども家庭福祉][虐待死][死亡事例検証]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top