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新型コロナウイルスワクチンのアレルギー反応と若年者への接種

No.5074 (2021年07月24日発行) P.46

中山哲夫 (日本臨床ウイルス学会総務幹事/北里大学 大村智記念研究所特任教授)

登録日: 2021-07-21

最終更新日: 2021-07-20

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通常のインフルエンザワクチンは病原性のないウイルスのフラグメントを1回だけ接種し,それに対して抗体を誘導するシステムです。そのため,このウイルスのフラグメントに対してアレルギー反応が発生しても,次のワクチン接種を実施しなければアレルギー反応は発生しません。
今回の新型コロナウイルスワクチンはmRNAを接種し,自己の細胞のリボソームにて病原性のないコロナウイルスのスパイクのみを作製します。これは単回でなく複数回作製されるため,利益としては抗体が誘導される可能性が上がります。不利益としてはこのスパイクにアレルギー反応が発生した場合,複数回発生する可能性があります。また,自己の細胞がアポトーシスを起こすまではこのスパイクの作製を止めることができないなどが考えられます。
新型コロナウイルス感染症は若年者,基礎疾患のない人には生命へのリスクが低いと思われますが,ワクチン接種に関してどのように考えればよいのでしょうか。専門家にご教示をお願いします。(滋賀県 N)


【回答】

 【mRNAワクチンでは欧米に比べアナフィラキシーの発症率が高いが,感染拡大の防止には20〜 30歳代への接種が有効】

現在,世界で承認され接種が進んでいる新型コロナウイルスのワクチンの剤型は,SARS-CoV-2のスパイク蛋白を発現するmRNAワクチンと,ウイルスベクターとしてチンパンジーアデノウイルスにスパイク蛋白領域のDNAを組み込んだウイルスベクターワクチンです。

mRNAは環境や生体に存在するRNA分解酵素によって分解されるため特別な油の粒子に包まれています。mRNAは(-)荷電で陽性に荷電したionizable cationic lipidに結合させリン脂質,コレステロール,脂質と結合させたポリエチレングリコール(PEG) で粒子形成(lipid nanoparticle:LNP)させるとmRNAを中に包み外側にPEGが並び水溶性となります。LNPに包まれたmRNAは樹状細胞に取り込まれ細胞内で蛋白を発現するだけでなく,プロセッシングを受けペプチドに分解されMHC Iに提示されCD8T細胞を活性化し,またMHCⅡに提示されることでCD4T細胞に認識されTh1, Th2応答を誘導し,抗体産生だけでなく細胞傷害型T細胞も誘導します。一本鎖RNAは細胞質内の自然免疫系のTLR7/8に,mRNAの一部二本鎖RNAはTLR3に認識されIFN-α/β,炎症性サイトカインを誘導し免疫応答を調節します。Th1/Th2のバランスのとれた免疫応答を誘導することで感作を増強することはないように思われます。

mRNAワクチンはLNPに包まれ,外側はPEGに覆われています。ワクチン接種が拡大することでPhaseⅢでは観察されなかったアナフィラキシーが報告されていますが,100万接種に72例と欧米に比べて発症率が高いようです1)。アレルギー反応の原因としてPEGの可能性が疑われています2)。ワクチン接種後にアナフィラキシー反応が出現することはそれまでに感作されていることが条件となります。PEGは水溶性化,粘性を維持するために医薬品,食品,化粧品等に広く使用されていることから,マルチアレルギーを持つ人は注意が必要です。

もう1つのワクチンは,アストラゼネカ社のチンパンジーアデノウイルスの初期蛋白遺伝子領域を欠如させてスパイク蛋白遺伝子を挿入したものです。これは接種されると樹状細胞,マクロファージ等に感染し核内でDNAからmRNAを合成し細胞質内に移行し,その後の反応はmRNAワクチンと同じ免疫応答を誘導できます。アレルギー反応は起こしにくいものの血栓の形成が問題とされています。

医療従事者や高齢者から,基礎疾患を有する成人,16歳以上の一般成人と接種の対象が移っています。ワクチンの導入開始は2月ですので欧米と比べるとそれほど遅れたわけではありませんが,ワクチンの供給が遅れている現状と,その後の接種体制のシステムの整備の遅れから接種が予定通りに進んでいません。

高齢者は感染拡大の感染源ではなく,感染源となっている20〜30歳代の接種が進まないと流行をコントロールするには至りません。ファイザーのmRNAワクチンは12歳以上,モデルナのmRNAワクチンは18歳以上,アストラゼネカのウイルスベクターワクチンは18歳以上で臨床試験が行われており,またファイザーに続いてモデルナ,アストラゼネカのワクチンは日本での臨床試験が終了し製造承認申請が出され,2021年5月に承認されました。

変異株,特にイギリス株が流行し低年齢層に感染が拡大しており後遺症等もあるなど,最近では若年者でも軽症とは限らず20〜40歳代での入院例が増えています。そして,こうした年代が感染源となりますので早期のワクチンの接種拡大が望まれます。ワクチン効果の減弱が懸念されていますが,50%以上がワクチン接種を受けたイギリスでは新規患者報告例数も減少して効果が現われています。

【文献】

1) Blumenthal KG, et al:JAMA. 2021;325(15): 1562-5.

2) Zhou ZH, et al:J Allergy Clin Immunol Pract. 2021;9(4):1731-3.e3.

【回答者】

中山哲夫 日本臨床ウイルス学会総務幹事/北里大学 大村智記念研究所特任教授

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