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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『1日接種回数の推定』」鈴木貞夫

No.5072 (2021年07月10日発行) P.62

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2021-06-28

最終更新日: 2021-06-28

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菅首相が6月9日の党首討論で、自ら目標に掲げる「1日100万回接種」を達成したと表明したことを受け、時事通信が「勇み足か」、毎日新聞が「実際の接種ペースは1日60万回程度とみられる」などと、過大評価を暗示、明示した記事を出した。今回は、1日接種回数の推定について考えてみる。

官邸データベース1)は、最新報告日の接種実績で前回までの実績を上書きする形で更新されている。接種初日である2月17日は17日分を、翌18日は18日分と前日届け出していない17日分を報告する。以下、当日接種データに過去の未報告の接種にも届出日をつけて報告するシステムだ。エクセルのファイルにするなら、横は届出日、縦は接種実施日とし、届出当日のデータを右端に加えながら毎日1行ずつ下に付け足す形が分かりやすい。ファイルは右下に降りていく階段状になり、データは、横の届出日ベースの接種回数のみを日々更新していく形をとる。問題が表面化した6月9日のデータを見てみよう。

同9日までの総接種回数は2038万3612回で、うち64万1868回が9日に接種されたと報告されている(毎日新聞の数値はこの指標と思われる)。「届出総接種回数の差」は前日データの8日までの総接種回数1937万1685回との差101万1927回になる。

これは、2月17日を左端、6月9日を右端にした、横1行の6月9日届け出の接種総和である。一方、同9日の「実施日ベース」の総数は、その右端の9日のセルから下に伸びる、9日以降の届出数も加えた縦の総和で表される。つまりこの議論は、「実施日ベース」の1日接種回数を「届出日ベース」で代替することの妥当性の話である。現在の接種増加局面にあっては、今日報告される前日の接種回数より、明日報告される今日の接種数の方が多いと考えるのが自然であり、その仮定の下で、同9日の実施日ベース接種回数は、届出日ベースを超える。「接種数100万回超え」はむしろ控えめな推計と考えられる。事実、6月9日の実施日ベースの接種数は、 同24日には101万4602回となり、届出日ベースを既に超えている。

メディアにも官邸にも、この指標をきちんと解釈できる人がいなかったのは残念だ。なお、この指標はオックスフォード大学が運営するデータベース「Our World in Data」にも「new_vaccinations」として採用されているもの2)である。

【文献】

1)官邸データベース「新型コロナワクチンについて」

   [https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html] 

2)オックスフォード大学が運営するデータベース「Our World in Data」

   [https://github.com/owid/covid-19-data/tree/master/public/data] 

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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