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【識者の眼】「外来診断訴訟の高リスク:感染性心内膜炎」徳田安春

No.5072 (2021年07月10日発行) P.67

徳田安春 (群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)

登録日: 2021-06-28

最終更新日: 2021-06-28

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感染性心内膜炎は心臓の弁に細菌が感染し持続性菌血症を起こすが、病初期には非特異的な症候を呈するのみのことが多い。敗血症のような不安定なバイタルで発症することは少ない。そのため診療所や病院の外来を受診することが多い。初期には全身状態も良好なことが多いので、診断エラーのリスクが高い。不適切な抗菌薬投与が行われると、不完全な部分治療となってしまい診断をさらに困難にしてしまう。

21世紀初頭に行われた国際共同研究のデータをに示す1)。発熱以外の診察所見で半数以上に認められるものはなく、炎症反応の上昇を認めないケースもある。「新規の心雑音プラスOsler結節プラス結膜出血」などの決定的な所見があれば診断は容易であるが、そのような所見に乏しいケースが多い。

外来ベースでは経胸壁心エコー(TTE)を行う施設も多いが、TTEの感度は高くないので、疣贅を認めなくても心内膜炎の除外には弱い。経食道心エコー(TEE)データさえ感度100%ではなく、入院後に2回TEEを施行してやっと疣贅を認めることができるケースもある。

西口と徳田らの湘南鎌倉総合病院の患者145人(平均年齢70歳)の研究では、受診から診断確定されるまでの時間の中央値は13日であり、このうち診療所や病院外来の初診から心内膜炎の診断を検討するまでの時間の中央値は6日だった2)。心内膜炎診断を検討するまでの時間が遅れたケースで有意に認めた因子は、受診時に発熱がないこと、血清CRP値が10mg/dL未満、救急車を利用せずに受診、不適切な抗生物質の使用であった。心内膜炎を早期に診断するためには、受診時に発熱がない場合や血清CRP値が軽度のみ上昇しているケースで心内膜炎を除外してはならないし、抗生物質の不適切な使用を避け、疑いケースでは全身状態が良好でも血液培養を採取することを勧める。

神戸大学病院に紹介された82人の心内膜炎でも、受診から診断までの日数の中央値は14日であり、65%の患者が診断前に不適切な抗生物質を投与されていた3)。10人(12%)の患者が経過観察中に死亡したが、そのうち8人は不適切な抗生物質の投与を受けていた。この施設のデータからも、不適切な抗菌薬投与は心内膜炎の診断と治療に負の影響をもたらすことがわかる。最後に繰り返しになるが、外来ベースで心内膜炎を疑う場合、まずは血液培養を採取しておくことを勧めたい。

【文献】

1)Murdoch DR, et al:Arch Intern Med. 2009;169(5):463-73.

2)Nishiguchi S, at al:Medicine(Baltimore). 2020;99(30):e21418.

3)Fukuchi T, et al:Medicine(Baltimore). 2014;93(27):e237.

徳田安春(群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)[診断推論]

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