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【識者の眼】「アルツハイマー病新薬は根本治療薬とは呼べない」上田 諭

No.5071 (2021年07月03日発行) P.56

上田 諭 (戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)

登録日: 2021-06-24

最終更新日: 2021-06-24

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アルツハイマー型認知症(AD)に対する新薬「アデュカヌマブ」が、米国食品医薬品局(FDA)から6月7日に承認された。「画期的な薬」などと報じられ、国内でも年内承認の可能性が出てきた。

これまでの抗認知症薬は見かけ上進行を抑制するだけであったが、新薬はADの原因とされるアミロイドβ蛋白(以下、アミロイド)を壊す抗体で、認知症への進展を抑制する「根本治療薬」と期待された。しかし、治験での効果は十分とは言えず、とても根本治療薬と呼べないだけでなく、もし国内で承認されたとしても、実用化にはクリアーすべき難題が多い。

新薬の治験では、1年半の投薬で脳内のアミロイドを著明に減らしたが、認知機能は認知機能評価スケールMMSE(mini mental state examination)で2.7点低下し、プラセボ(3.3点低下)と比較して0.6点低下が少ないだけだった。アミロイドが減っても認知症は発症し進行し続けたと言わざるを得ない。一般的副作用として、脳画像上の脳浮腫、微小出血も報告された。

薬の適応があるのは認知症発症前の軽度認知障害(MCI)かAD初期の人だけだ。いま認知症の大半の人には恩恵はない。加えて、脳にアミロイドが蓄積している人(アミロイド陽性者)に限られる。陽性者を見つけるにはアミロイドPETという装置が必要だが、国内では30施設ほどにしかなく、施行に数十万円がかかる(保険適用はない)。陽性を確認できる血液検査の開発が進んでいるが、まだ確立していない。

処方にも課題がある。手軽な内服ではなく点滴での投与であるうえ、開発に巨額を要した抗体薬という性格上、薬価は1人年間約610万円かかる。医療財政が負担することができるのか、大きな課題である。

新薬について、FDAの諮問委員会の専門委員は11人全員が承認に不賛成を表明していた。承認決定後、3人が抗議の辞任をした。異常事態である。承認の正当性も問われている。

新薬に注目はしたいが、とても期待はできない。

上田 諭(戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)[認知症医療]

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