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【識者の眼】「『ザイタク医療』⑤〜リハの真髄は“サイコロジカルヴィクトリー”〜」田中章太郎

No.5070 (2021年06月26日発行) P.62

田中章太郎 (たなかホームケアクリニック院長)

登録日: 2021-06-08

最終更新日: 2021-06-08

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3回目の緊急事態宣言が延長となった今、在宅医療の現場で、ステイホーム継続の影響を感じる。高齢者のフレイルをよく目にするようになった。運動しよう、散歩しよう、と提案してもうまくいかない。感染の心配を理由に断られてしまう。身体面の変化以上に、精神面の意欲の低下が著しい。今こそ、生活再建(リハビリ)が重要となる。今回は、ザイタク医療のリハビリで、タナカの知る限り一番大切なことをお伝えしたい。

医療統計学を学んだ大学院を中退後、リハビリ医学を兵庫県丹波篠山市で3年間学んだ。その頃CI療法(Constraint induced movement therapy)の国内導入に関わった。アトランタ・エモリー大学ウォルフ教授(当時CI療法の第一人者)の研究室に見学に行き、CI療法の『サイコロジカルヴィクトリー』という考え方を教わった。

CI療法とは、脳卒中片麻痺患者の麻痺側上肢の訓練方法で、訓練前後の上肢機能改善だけでなく、前後の日常生活動作の改善、意欲の改善、さらには、それらの改善が継続していく。この中心には、患者さんが日々の生活を少しでも意欲的に過ごすようになったら、その変化に注目して共に喜ぶことで、さらに患者さんの意欲が継続・向上する『サイコロジカルヴィクトリー』(心理的勝利)という考え方がある。

当時、CI療法を受けた患者のSさんは、脳梗塞後遺症、右不全麻痺、杖歩行自立だったが、CI療法以降の意欲改善が素晴らしかった。右上肢機能回復に向けたスモールステップを次々見つけ、回復の道のりを考え、クリアしていく。スモールステップが、本当に絶妙だった。クリアできるかできないか、ギリギリのラインだ。訓練方法も意欲的に開発された。ほとんど自作訓練道具での自主訓練だった。診察では多少の訓練方法の修正は提案するが、Sさんはいつも笑顔で自慢げだ。良かれと思いリハビリ仲間にも笑顔で次々と話しかける。「あ〜これはな、こうやればエエんや、これなんかは、こっちのほうがエエで!」。もう療法士やリハ医なんかそっちのけで、楽しくやっておられた。これこそがリハビリ、生活再建だと思った。彼は『サイコロジカルヴィクトリー』を地で行き、リハビリの真髄を見せてくれた。

今、ザイタク医療のあらゆる場面で『サイコロジカルヴィクトリー』が大切であると思う。暮らしの中にこの考え方を取り込めれば、コロナ禍のフレイル問題も解決できるように考えている。

田中章太郎(たなかホームケアクリニック院長)[在宅医療]

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