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在宅癌化学療法[私の治療]

No.5063 (2021年05月08日発行) P.49

蘆野吉和 (山形県庄内保健所長)

登録日: 2021-05-08

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  • 在宅癌化学療法の概念には多少混乱があるように思われるので,初めに歴史的な背景をたどりながら,本稿で記述する内容の基本となる治療の概念について説明する。
    在宅癌化学療法の歴史は,1990年4月の「在宅悪性腫瘍管理料」の新設に始まる。当時癌化学療法は入院を前提に行われており,これを契機に入院以外での治療という意味で「在宅」という言葉が使われた。その後,2003年4月に「外来化学療法加算」が新設されたことにより,外来での化学療法が主流となり,在宅癌化学療法=外来化学療法との誤解が生じている可能性がある。しかし,本法はもともと在宅療養を念頭に置いたがん治療という位置づけがあり,特に進行したがん患者においては,治療効果がない場合には直ちに在宅医療に移行することも念頭に置いた概念である。

    この概念における重要な視点は,日本を含めた先進国において,抗癌剤治療が死亡直前(1カ月前あるいは2週間前)まで実施され,そのまま病院で亡くなる人が多いという事実があり,治療効果が望めない場合は早めに在宅医療に移行できる環境を整備する必要があるというものである。このためには,在宅医療を行う診療所と病院との連携で外来化学療法が実施される体制構築が必要であり,これを在宅癌化学療法と呼ぶのが適切と思われる。

    ▶治療の実際

    基本的には病院と診療所との連携を前提として抗癌剤治療が実施される体制で,情報(治療方法,治療効果評価データ,検査データ,説明内容など)を共有しながら,注射薬による治療および治療効果判定は病院で,治療に伴う副作用などの健康観察および検体検査は診療所(外来あるいは在宅)で行う。なお,場合によっては,在宅の現場で注射薬を投与することもある。緩和ケアを含む支持療法(疼痛治療,栄養療法等)も基本的には診療所が対応する。なお,血液疾患では,支持療法としての在宅輸血も実施されている。

    ▶緊急時の対応

    緊急時とは,抗癌剤(分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を含む)による副作用(発熱性好中球減少症,間質性肺炎,下痢,腸管穿孔など)で緊急対応が必要な場面と,がんの進行に伴う急性症状(出血,疼痛,骨折など)で緊急対応が必要な場面がある。いずれも,治療開始時に,どのような対応法があるのか,誰が対応するのかについて,病院および診療所の担当医が,できれば役割分担を決めた上で,本人および家族に対して十分説明しておくことが必要である。

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