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[提言]自宅療養中の陽性者等の在宅医療対応(英 裕雄)

No.5062 (2021年05月01日発行) P.98

英 裕雄 (新宿ヒロクリニック院長)

登録日: 2021-04-15

最終更新日: 2021-04-15

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1 現状と課題

本年1月の第三波感染拡大時,保健所からの自宅療養陽性者の電話相談,往診対応依頼や,他の診療所からの在宅患者の自宅でのPCR検査依頼が急増した。本稿はその時の状況を振り返りつつ,自宅療養中の陽性者対応の課題をまとめたい。

自宅療養中の陽性者の医療対応のうち夜間の電話相談については,昨年12月から図1のスキームに基づいて,新宿区内で補助事業(電話相談1件あたり1万8000円)がスタートしたが,保健所からの往診依頼や他の診療所からの往診検査依頼は診療報酬(往診料)のみでのカバーとなっており,とても採算の取れる事業とはなっていない。そのため,有志の医療者によるボランタリーな突発対応に限られているのが実情である。

自宅療養中の陽性患者は様々な身体症状と同時に大きな不安を抱えながら,社会生活を継続しており,時に不安から救急車要請をして過大な負担を救急医療に及ぼすこともある。こうしたことから十分な在宅医療サポート体制を作ることが,地域療養者の病状安定や安心感を提供する意味でも,病院医療に対する負荷を軽減する意味でも,大切であると考える。しかし下記のハードルに備える必要がある。

(1)十分な感染症対応を行っての往診〔個人用防護具(PPE)を装着しての往診〕自体のハードル

自宅を訪問する際に,医療者のPPE装着は必須である。ただ,PPEを装着しての診療は通常診療に比べて,着脱の手間が必要なばかりか,視野も限られ,聴診もしづらいという特徴がある。持ち込み診療機材も限定する必要があるため(電子カルテなど消毒不能の機材持ち込みはできない),問診やカルテ記載も通り一遍になりやすい。あらかじめ電話等で詳細な問診を行った上で訪問して,短時間で効率的な診療を心がける必要があり,保険証確認など通常の初診診療で必須となる様々な事務作業が後手に回りやすい。しかし陽性者の方や保健所の方には大変ありがたがられているのが実情である。

(2)陽性者の医療や療養支援体制に対する知識不足のハードル

陽性者の往診においては,状態確認(酸素飽和度測定などを含めて全身状態の確認),検査(採血検査等)を行いつつ,経口摂取不良者への点滴などを行うことが多いが,地域医療機関において陽性者の医療の知識(症状観察ポイントなどの留意点)不足もあり,バックアップ体制が不可欠と思われる。当院では,採血結果などを近隣病院の感染症専門医に適宜メールなどで相談しているが,このような陽性者往診医をサポート,もしくは教育する体制が必要であると考える。

(3)保健所との連携のハードル

自宅療養中の陽性者は保健所の管理下で療養しており,連日保健師が電話で安否確認などを行っている。従来,地域医療機関は保健所と連携した医療対応実績がほとんどないため,保健所,医療機関双方にとって困惑もあるのが実情である。往診後の報告やその後の療養支援も保健所と濃密な連携のもとに行っていく必要がある。当院では上記事業協力をしていることもあり,24時間保健所と電話でつながることができるが,通常公表されている保健所の電話は日中しかつながらず,連絡がつかないことも危惧される。また個人情報の問題もあるが,頂く情報は非常に散発的であり,情報の疎通性は大きな課題である。

(4)訪問看護や遠隔診療についてのハードル

従来,在宅医療において訪問看護との連携は非常に重要で,自宅療養陽性者の療養生活支援も看護が大きな役割を担う可能性が高いと思われるが,自宅療養陽性者は保健師が通常カバーしていることから,看護と保健師の間の協力関係を補完協働的に作るスキームが必要である。一方で,遠隔診療は自宅療養陽性者を支える仕組みづくりとして非常に期待されるが,現在の単発的な電話相談や往診依頼での対応では遠隔診療の導入までできていないのが実情である。

(5)医療費自己負担のハードル

自宅療養陽性者は通常,往診を含めた在宅医療を受けたことがないため,医療費の自己負担がどれぐらいなのか非常に心配されていることが多い。時には医療費が心配で必要な医療を受けることを拒否することもあるので,療養期間中の医療費自己負担軽減措置が取られていることを周知する必要がある。

2 今後の提言

レベル1 保健所中心医療サポートレベル

陽性者の医療費自己負担軽減策と同時に,現在の保健所を中心としたサポート体制を補完する意味での往診や電話対応,他の診療所からの往診検査依頼などを十分手厚い報酬等でまかない,補完体制を充実させる。

レベル2 保健所・医療協働レベル

医師会診療所や特定診療所(グループ診療在支診など)を核(基幹診療所)として地域全体のバックアップ体制を構築し,予め保健所が保持している自宅療養陽性者情報(保険証,療養期間,基礎疾患など)の共有化を図りつつ,自宅療養陽性者全員に遠隔診療の基盤等を整備し,診療,看護などが協働できるようにする。

レベル3 地域全体モデル

基幹診療所が陽性者対応のみならず往診等の検査対応を含めて地域の窓口となりながら,診療所同士および病院との連携のもとに検査体制から陽性療養中の病診連携体制,後遺症者のフォロー体制などを一貫して構築する。在宅患者の家族が陽性になった場合などに起こっている介護崩壊などに対しても,介護事業者同士などの連携体制を構築する。

3 最後に

従来自宅療養されている陽性者の療養支援は地区の保健所により対応されてきており,本稿はその当時に記述したものである。今般東京都ではフォローアップセンターによる療養支援体制に切り替わっており,第四波到来に備えて地区ごとに急速に医療体制整備を進めている。

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