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【識者の眼】「胃の老化はピロリ菌がいないと進まない」浅香正博

No.5057 (2021年03月27日発行) P.65

浅香正博 (北海道医療大学学長)

登録日: 2021-03-04

最終更新日: 2021-03-04

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ピロリ菌が胃の粘膜に感染すると、白血球やリンパ球を中心とする炎症細胞浸潤が出現してくる。これがピロリ感染胃炎と呼ばれる状態で、感染すると100%の胃粘膜に生じる。これは病理学的な胃炎であり、自覚症状のない場合がほとんどである。感染後しばらくすると他の細菌感染と同じように抗体が産生されるようになってくるが、ピロリ菌は抗体による排除作用を巧みに逃れる術を有しており、抗体ができても感染を持続できるやっかいな細菌である。したがって、一旦胃粘膜に感染すると一生にわたって感染が持続すると考えてよい。感染が長く続くと、炎症細胞の種類は白血球からリンパ球へと変化し、胃粘膜の感染部位も広がっていき、最終的にはすべての部位を巻き込み、胃粘膜が次第に荒廃し萎縮性胃炎に変化していく。

萎縮性胃炎とは、胃酸や粘液を分泌する胃の腺組織の消失が進んだ状態である。ピロリ菌の発見以前、萎縮性胃炎は典型的な胃の老化現象と位置づけられ、どのような治療も有効ではないとされてきた。ところが、我々が行った大規模臨床試験で、ピロリ菌の存在しない胃では、高齢者でも萎縮性胃炎は存在しないことが明らかになった。これまでの常識がひっくり返ってしまい、心の底から驚いたことを思い出す。胃はきわめて老化しにくい特殊な臓器であり、ピロリ菌陰性者では80歳を超えても胃の萎縮性変化はほとんど見られない。このことは今では常識になっているが、発表当時はほとんどの人に信じてもらえなかった。その後の研究で、ピロリ菌の除菌により通常の慢性胃炎は1カ月で完治してしまうが、萎縮性胃炎の改善には10年近くかかることがわかってきた。私自身、1994年当時はピロリ菌陽性であり、典型的な萎縮性胃炎像を呈していた。除菌を行ってから25年経った2019年に胃内視鏡を再検したところ、萎縮性胃炎は完治しており、きれいな胃粘膜を呈していた。現在、70歳を超え老化が全身に及んできているが、胃だけは40歳時より明らかに若返っている。

萎縮性胃炎は老化現象ではなく、ピロリ菌感染によって発症する病気だったのである。そうであれば、ピロリ菌を除菌することによって胃がんを予防できる可能性があるのではないか、と言う考えが頭に浮かんできたのは当然の成り行きであろう。

浅香正博(北海道医療大学学長)[除菌療法]

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