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【識者の眼】「日本の医療の三つ巴」神野正博

No.5050 (2021年02月06日発行) P.77

神野正博 (社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)

登録日: 2021-01-27

最終更新日: 2021-01-27

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数年前、海外からの留学生数人を地元能登の観光に案内した。とある旧家に下記のような紋がある。「あれはどういう意味だ」としきりに尋ねる。「そんなの知らない」は許されない雰囲気だった。思わず口から出まかせに、次のフレーズが浮かんだ。“There are three forces in the world. Three make tension and stability. Two make competition and win-lose.”である。彼らも感心したが、一番感心したのは私自身だった。

帰宅後、この紋は「三つ巴」だと知った。考えてみれば、椅子の脚と同じように世の中三つ巴ゆえに安定していることも多々あるように思えてくるのである。医師と患者の関係は、「お任せ」「つべこべ言うな」(パターナリズム)という関係にあった。そこに、マスコミやインターネットによる情報という巴が入ることで、緊張感ある三つ巴関係になったのである。そして、社会保障費の伸びを抑えること、世界最高水準の医療を提供してきたことに対するもうひとつの巴は、医師をはじめとする医療職の倫理観に基づく犠牲的労働だったのかもしれない。それがコロナ禍という緊張の今、さらなる負荷がかかり、医療職の疲弊、医療崩壊という形で顕わになってきたのではないだろうか。だからこそ、別の巴を探して持続可能な医療提供体制を模索することは重要だと思う。

もともと診療報酬だけでは、高い稼働率を確保しない限り経営が成り立たない。そこに、コロナ感染症患者受け入れの「念のため病床」を確保せねばならない。公ばかりか民の病院でも感染症をはじめとした政策医療を求めるならば、診療報酬の枠の外の費用を手当せねば成り立たないことは自明であろう。

一方、費用を抑えて、質の高い医療を提供していくためのもうひとつの巴として、「医療の効率化」が挙げられる。ここでいう効率化は、DX(デジタルトランスフォーメーション)、標準化に始まり、もう一歩踏み込んだ医療〜介護〜福祉〜保健の一元化、医療提供体制の再構築などといった構造改革を断行すること、それによる費用対効果を最大限に導く施策ではないだろうか。

withコロナ時代をチャンス到来として、大胆な仕組みの改革を模索すべき時だろう。

神野正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)[持続可能な医療提供体制]

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