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【識者の眼】「SVSアクションシートを活用してSDHの診断と社会的処方に取り組もう」西村真紀

No.5046 (2021年01月09日発行) P.62

西村真紀 (川崎セツルメント診療所所長)

登録日: 2020-12-09

最終更新日: 2020-12-09

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第12回(最終回)は、健康の社会的決定要因(social determinants of health:SDH)の診断や、社会的処方のためのツールであるsocial vital signs(SVS)アクションシートをご紹介します。

本連載で述べてきたように、病気の原因はさかのぼるとSDHにたどり着くことが多いと読者の皆さんも気づいてきたと思います。しかし、「なんとなく困っていそう」「SDHの匂いがぷんぷんする」そんな患者さんに出会っても、何をどう聞きどう対処すればよいのかが明確でなく、ツールがあるといいなあと感じている方も多いのではないでしょうか? 臨床では生物医学的アプローチとしてまずvital signの異常をチェックし、臨床推論を展開していくと思います。それと同じように、社会的な診断に結びつく社会的状態を示すのがSVSで、北海道勤労者医療協会の堀毛清史先生によって考案されました。SVSを研究しているチームSAILのwebサイトもぜひご覧ください(https://sites.google.com/view/svstool)。

チームSAILは、SVSを人間関係、収入、趣味、ヘルスリテラシー、食事や住居、医療や福祉、本人の意向の7項目に分け、それぞれ①What(何が起きているのか)、②Why(なぜ起きているのか)、③How(どのようにするのか)の3つの項目で分析する7×3の表(SVSアクションシート)を開発しました。SVSアクションシートの使い方は、まず多職種でWhatの情報を埋めていき、次に情報共有しディスカッションを進めてWhyを考え、Howを導き出していきます。表を埋めることが目的ではなく、ディスカッションの過程でWhy(=疾患を引き起こした上流のSDHを探る)、How(=社会的処方を考える)ことが重要です。この過程は多職種、患者本人、時には家族とも行う共同作業であり、地域に起こっている普遍的なSDHに気づくチャンスでもあります。そして私が注目しているのは項目の最後「患者の意向」です。この項目によりSDH④(No.5011)で述べたスティグマを防ぐことができます。SVSアクションシートは、完成するのには数カ月以上の時間がかかることもしばしばで、またアクションを起こしながらバージョンアップしていきます。SDHは時間とともに変化し、その取り組みに終わりはありません。

1年にわたるSDHの連載をお読みくださった皆様、ありがとうございました。この連載が皆様の診療でのSDH対策に少しでもお役に立てれば幸いです。

西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)[SDH⑫][SVS][社会的診断][社会的処方]

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