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【識者の眼】「振り込まれないマレーシア人女性の高額治療費、事態が急転したのは…」南谷かおり

No.5039 (2020年11月21日発行) P.63

南谷かおり (りんくう総合医療センター国際診療科部長)

登録日: 2020-11-12

最終更新日: 2020-11-12

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観光で日本を訪れた20代のマレーシア人女性。滞在中に魚の骨が喉に引っ掛かり、一週間後に喉の痛みと呼吸困難を訴え東京で受診したが、持病の喘息と診断された。しかし症状が悪化したため、関西在住の姉が東京まで車で迎えに来て連れて帰るも玄関先で倒れ、当院に救急搬送となった。患者は敗血症性ショックを起こしており、CTにて頚部〜縦郭に膿瘍が疑われ緊急手術となった。もともと糖尿病もあってその後はICUに入院となり、治療費は膨れ上がった。本人はマレーシアで旅行保険に加入していたが、保険会社が色々と理由を並べて支払いが滞っていた。

さらに患者が入院中に母国で母親が危篤状態に陥り、姉はそのことを患者に隠して「不在中は妹を頼みます」と国際診療科のコーディネーターに言い残し、一旦帰国した。当院は患者を抱えたまま、治療費も振り込まれずに不安は募っていった。

ところが暫く立ってから高額の治療費が保険会社から振り込まれることになった。実は、帰国して途方にくれた姉が友達に相談したところ、マレーシアでは有名な芸能人の知り合いに連絡してくれて、その芸能人が妹の状態をフェイスブックで拡散したのだ。そこには元気だった頃の姉妹の写真や現在のICUでの容体、当院の写真や治療費の明細書まで載ったらしい。高額な治療費を某保険会社は支払ってくれない、こんな保険に加入するのは止めましょうと芸能人が名指しで書いたため、どうやら慌てて会社が動いたらしい。さらに保険には上限額があり足りなかったのだが、妹のために寄付金が集められ残りの治療費も支払われることになった。

患者は一カ月で快復し、マレーシアに帰国した。退院前にお世話になった医療スタッフ全員と集合写真を撮り、支援してくれた皆さんに報告したいからと許可を取って公開したようだ。こんな話は珍しいが、日本の医療レベルの高評価にもつながったハッピーエンドのケースであった。

南谷かおり(りんくう総合医療センター国際診療科部長)[外国人診療]

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