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【識者の眼】「オンライン学会の可能性と限界」小田倉弘典

No.5033 (2020年10月10日発行) P.61

小田倉弘典 (土橋内科医院院長)

登録日: 2020-09-30

最終更新日: 2020-09-30

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7月から9月にかけて第84回日本循環器学会(JCS2020)、欧州心臓病学会(ESC2020)は、コロナ禍の特殊な状況の中、すべての発表がオンライン配信で行われた。JCS2020は全737セッションがライブまたはオンデマンド形式で実施され、7日間の参加登録者は1万6800人を超え、Twitterによる情報発信も含め、ある意味熱狂的な1週間であった。また全面デジタル化をうたうESC2020は211カ国から11万6000人超の登録者で、参加費はすべて無料と、空前の盛り上がりを見せた。

2学会が成功裏に終わった理由の1つにウェブ開催の持つ強みが挙げられる。職場や自宅から気軽にアクセスでき発表スライドをゆっくり見られる。Twitterによるまとめやスライド配信の利便性など、学会の在り方に多くの革新的変化を認めた。

個人的には、こうしたオンライン学会の持つ“static”な性格は、これまでとは違う意味で新たな可能性を秘めていると考えている。ライブ学会は、同じ医学的関心を持つ者が一堂に会し、日頃の研究成果を披露し合ういわば“enthusiastic”な空間である。一方オンライン学会は、日常診療の合間に手軽に最先端の知識に触れることができ、目の前の患者や状況と即時に対比することができる。たとえば昼休みに聞いたばかりの心不全緩和ケアの知識をすぐに午後の診療に活かすことができ、時に学会的知識と現場の乖離を生々しく実感する。学会の知識を批判的に吟味し現場との親和性を即座に確認できるという点で、オンライン学会は新しい知の形を提供してくれるのかもしれない。

一方で、一部ポスターセッションは抄録発表だけのものもあるなど、やはりディスカッションの深まりには物足りないものがあった。セッション前後のオフレコ部分がない分、新たな繋がりや新しい関係性の形成という点でも問題は多いと思われる。今後同じような形式が継承されるのか、ハイブリッド形式が採用されるのかも含め、興味深く見守っていきたい。

小田倉弘典(土橋内科医院院長)[オンライン学会][循環器診療]

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