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急性胆囊炎[私の治療]

No.5025 (2020年08月15日発行) P.40

河上 洋 (宮崎大学医学部内科学講座消化器内科学分野教授)

登録日: 2020-08-15

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  • 急性胆囊炎は胆囊に生じた急性炎症であり,腹痛患者全体の3~10%を占める。胆石保有者の1~3%に急性胆囊炎が発症する。90~95%が胆石に起因し,約20~50%に細菌感染が認められる。軽症例では細菌感染が存在せず,胆汁酸などの化学的刺激のみで炎症が惹起される場合があるが,ほとんどの例で抗菌薬投与の適応となる。時に,長期絶食による胆囊収縮能低下,大手術後の治療経過中,血管炎による循環障害などに起因する無石胆囊炎もみられる。急性胆囊炎の死亡率は0~2%である。

    ▶診断のポイント

    急性胆囊炎はTG18/TG13診断基準を用いて診断する。

    A:局所徴候(Murphy’s sign,右上腹部の腫瘤触知・自発痛・圧痛),B:全身の炎症所見(発熱,CRP値の上昇,白血球数の上昇),C:急性胆囊炎の特徴的画像検査所見(胆囊腫大,胆囊壁肥厚,嵌頓胆囊結石,胆囊周囲滲出液貯留,デブリエコー,sonographic Murphy’s signなど)に基づき,疑診(Aのいずれか+Bのいずれかを認めるもの),確診(Aのいずれか+Bのいずれか+Cのいずれかを認めるもの)と診断する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    重症度判定による評価を行い,引き続いて重症度判定基準に応じた治療を行う。適切な評価なしに抗菌薬の選択はありえない。

    治療の基本は,①胆囊摘出術,②抗菌薬治療,③合併する臓器障害に対する治療,である。重症度は頻回(6~12時間ごと)に再評価を行う。軽症を除いて,診断と同時に血液あるいは胆汁培養を繰り返し行い,起炎菌同定に努める。その後,速やかに抗菌薬投与を開始する。

    起炎菌は市中発症あるいは医療ケア関連胆道系感染症(healthcare-associated biliary tract infection)とで異なる。外来経由で入院した患者であっても,①1年以内の入院歴がある,②維持透析,③介護施設やリハビリテーション施設の入所者,④免疫能低下状態,などの患者は,医療ケア関連胆道系感染症として扱う。また,高齢者,術後患者,悪性腫瘍などの胆囊炎も同様に扱う。

    市中発症では大腸菌やKlebsiella spp.などの腸内細菌が高頻度に検出される。医療ケア関連胆道系感染症では耐性グラム陽性菌(緑膿菌,腸球菌,MRSA,エンテロコッカス属)やグラム陰性桿菌(エンテロバクター属),ESBL産生グラム陰性菌,嫌気性菌,真菌(カンジダ)なども検出される。病院内の感受性パターンも常にアップデートする必要がある。

    抗菌薬は各施設の薬剤感受性試験(アンチバイオグラム)や重症度分類に応じて選択する。耐性菌の蔓延を防ぐため,漫然とした第3世代セフェム系薬やカルバペネム系薬の投与は避ける。基礎疾患として胆道閉塞が存在した場合,胆道移行性が良好である抗菌薬を投与しても胆汁への移行は著しく阻害されるため,速やかな胆道ドレナージにより胆道への抗菌薬の移行を回復させる。なお,WHOの抗菌薬分類体系を意識して,軽症例では狭域スペクトル抗菌薬を中心に使用する。

    原則的に,3日間使用しても炎症所見が軽減しない場合は,抗菌薬を変更する。市中感染では軽症~中等症例で胆囊摘出術が行われた場合,抗菌薬投与は24時間以内に終了する。重症例では4~7日間の投与を行う。グラム陽性菌(腸球菌,レンサ球菌など)による菌血症の場合は,2週間以上の投与を行う。医療関連感染では,グラム陽性菌(腸球菌,レンサ球菌など)による菌血症の場合は,2週間以上の投与を行う。

    なお,胆囊摘出術の絶対適応は,壊疽性胆囊炎,気腫性胆囊炎,胆囊穿孔,胆囊捻転などであるが,それ以外は相対的手術適応となり,第一選択は抗菌薬投与による保存的治療である。嵌頓結石では抗菌薬が効きにくいため,胆囊ドレナージ術を行う。改善しないときは抗菌薬を変更する。胆囊ドレナージ後も胆汁中の細菌の陰性化がみられない場合でも,炎症症状が消退すれば抗菌薬は中止する。

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