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【識者の眼】「『PSA検診は不利益が大きい』の根拠論文は評価手法に問題がある」伊藤一人

No.5023 (2020年08月01日発行) P.59

伊藤一人 (医療法人社団美心会黒沢病院病院長)

登録日: 2020-07-22

最終更新日: 2020-07-22

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今回は、No.5011で指摘したPSA検診に批判的な6つの意見のうち、4つ目の「PSA検診は利益に比べて、不利益が非常に大きいため、対策型検診として推奨しない」との反対意見の問題点を解説します。

厚生労働省の「がん検診のあり方に関する検討会」の委員が、PSA検診は仮に僅かな死亡率低下効果があったとしても、不利益が大きすぎるために、対策型検診としては推奨しないとの見解をマスコミ報道で示しています。死亡率低下が既に証明されていることはNo.5021で解説しましたが、利益・不利益バランスの見解について厚労省委員は、米国予防医学作業部会(USPSTF)の2018年のJAMA論文データを根拠として紹介しています。この論文では、欧州で行われた無作為化比較対照試験(RCT)であるERSPCの結果(21%の死亡率低下)を基に解析が行われていますが、利益・不利益バランスの評価手法に大きな問題があります。

一般的に、検診実施の利益・不利益バランスを考える際には、PSA検診介入群と、介入しない対照群の様々な転帰を比較することが必要です。しかし、この論文では主に検診介入群(55〜69歳の1000人を13年間経過観察)の転帰をまとめています。それによると、240人でPSA検査異常、100人で癌が発見され、5人が前立腺癌で死亡し、対照群との比較で3人転移癌が減少し、1.3人死亡数が減少したが、検診介入で60人以上は治療により尿失禁や勃起不全になるなど不利益を認めたと報告しています。対照群では進行癌、転移癌発見例が増加しますので、長期のホルモン療法が必要で、再発時には高額な治療薬を使用するため、副作用による身体的負担のみならず、精神的・経済的負担が重くのしかかります。また緩和治療移行リスクは有意に高くなり、QOLの著しい低下をきたす患者さんが多くなります。これらの重要な対照群の転帰がUSPSTF論文では示されておらず、PSA検診介入の利益・不利益バランスの評価は不可能です。日本泌尿器科学会の最新ガイドラインで取り上げている、PSA検診の利益・不利益バランスに関する最重要論文は、次稿で紹介します。

伊藤一人(医療法人社団美心会黒沢病院病院長)[泌尿器科における新しい問題点や動き]

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