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急性緑内障[私の治療]

No.5020 (2020年07月11日発行) P.46

丸山勝彦 (東京医科大学病院眼科准教授)

登録日: 2020-07-13

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  • 急性緑内障とは,急激かつ高度な眼圧上昇を生じた病態であり,持続すると視神経乳頭の構造変化はもちろん,循環障害によって後々重篤な視機能障害が残存する。また,激しい自覚症状を伴うことも多いため,速やかに降圧治療を行わなければならない。
    急性緑内障は原発緑内障と続発緑内障に大別され,隅角所見から開放隅角機序と閉塞隅角機序にわけることができる。最も一般的なのは,急性原発閉塞隅角症(acute primary angle closure:APAC)である。

    ▶診断のポイント

    自覚症状として,典型的には視力低下,霧視,虹視症,眼痛,流涙,頭痛,嘔気・嘔吐が生じるが,症例によって差がある。また,検査所見として高度な眼圧上昇を認めるが,他の眼所見は病態によって異なる。特に続発緑内障の場合には,原疾患に対する治療が不的確であると眼圧下降が不成功に終わることも多いため,正確な診断が不可欠である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    いずれの病態でも,まず高浸透圧薬と炭酸脱水酵素阻害薬による眼圧下降治療を行う。静脈確保が可能か否か,あるいは嘔気・嘔吐で内服が可能か否かなどで薬剤の投与方法を選択するが,確実かつ速やかに眼圧を下降させるため,原則,点滴静注や静脈内注射を行う。同時に,水晶体の後方移動と硝子体体積の減少を促すため,仰臥位で安静を保ち,氷囊で眼球を圧迫しながらクーリングを行う。

    開放隅角機序の場合,各種眼圧下降点眼薬の投与と同時に,続発緑内障ではその原因に対する治療を行う。たとえば,ぶどう膜炎には消炎,血管新生緑内障には抗VEGF薬の投与,ステロイド緑内障にはステロイドの減量・中止を行う。また,水晶体に関連した緑内障では外科的治療が必要となることが多い。

    一方,閉塞隅角機序の場合,APACでは原則,外科的に瞳孔ブロックを解除する必要があり,直後の眼圧上昇を予防するため交感神経α2受容体作動薬,ならびに縮瞳による虹彩の伸展,隅角の開大を図るため副交感神経作動薬を点眼した後,レーザー虹彩切開術を試みる。また,角膜浮腫や前房消失のためレーザー照射が困難な症例や,角膜内皮細胞密度減少例などでは観血的に周辺虹彩切除術を行う。なお,瞳孔ブロックを解除する最も確実な方法は水晶体摘出であることから,眼内レンズ度数決定のためのデータが正確に測定可能で,かつ安全に手術が遂行できる条件がそろえば,一期的に水晶体再建を適応することもある。そして,瞳孔ブロック解除後も高眼圧が持続する場合には,観血的眼圧下降手術を追加する。

    続発閉塞隅角機序の場合,治療方針は病態によって異なるが,いくつかの注意点がある。たとえば,Vogt-小柳-原田病の急性期の臨床像はAPACと類似するが,炎症が助長されるため副交感神経作動薬の投与は避け,消炎治療によって閉塞隅角は改善するため,早まって外科的治療を行ってはならない。また,ぶどう膜炎に伴う絶対的瞳孔ブロック(iris bombe)で内科的治療が奏効しない場合,レーザー虹彩切開術ではレーザー後の炎症反応で孔が閉鎖する可能性が高いことから,観血的周辺虹彩切除術を行う。

    【注意】

    高浸透圧薬の点滴による急激な循環血漿量の増加は,心不全や肺水腫の原因となり,その後は利尿作用によって脱水となることもある。特に,高齢者や嘔吐している症例に対しては,全身状態に注意を払う。副交感神経作動薬の点眼は,水晶体前方移動による瞳孔ブロックの助長や,経鼻的吸収による腹痛などの全身副作用の原因となるため,対光反射が完全に消失している無効例への頻回投与は避ける。

    【禁忌】

    特に高齢者や喫煙者に対しては,潜在的に慢性閉塞性肺疾患を合併している可能性を念頭に置き,交感神経β受容体遮断薬の投与は慎重に行う。なお,急性緑内障は緊急疾患であり,既往歴を詳しく聴取できないこともあるので注意する。

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