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【識者の眼】「抗菌薬供給トラブルとグローバル化の弊害」具 芳明

No.5021 (2020年07月18日発行) P.63

具 芳明 (国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長)

登録日: 2020-07-02

最終更新日: 2020-07-02

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臨床現場に不可欠な抗菌薬のひとつにセファゾリンがある。セファゾリンは第1世代セファロスポリン系注射薬で、周術期感染症の予防や皮膚軟部組織感染症の治療に広く用いられている。2019年にはセファゾリンの大幅な不足が生じ、その影響が広がって多くの抗菌薬に出荷調整がかかる事態となった。その直接的な原因は、セファゾリンの最大シェアを持つ製薬会社が海外での原薬製造トラブルを機に半年以上にわたって販売を中止したことであった。

この「セファゾリンショック」は抗菌薬の安定供給への関心を高めることになった。多くの抗菌薬はジェネリック医薬品に切り替わっており、海外からの原薬に頼っている。日本で開発されたセファゾリンも海外で生産された原薬を輸入して販売されているのが現状である。そしてその原薬もまた、他の国の企業から原料を購入して製造されているというように複数の国の企業が関わっている。グローバル化によってコストが下がり効率良く生産できるようになったものの、その過程のどこかにトラブルが生じると対応しきれなくなってしまうことがセファゾリンの件ではっきりしたのである。なお、セファロスポリン系を含むβ-ラクタム系抗菌薬の出発物質はほとんどすべてが中国製となっている。

グローバル化の弊害はコロナ禍に伴ってさらに顕在化している。マスクなど医療材料は中国からの輸入が滞り、需要増加と相まって不足が生じた。同じように、医薬品についても世界のどこかで生産や流通が滞ると日本にも影響が及ぶ。インド政府による原薬の輸出制限がいくつかの医薬品の供給制限につながったのはその一例といえる。

厚生労働省はこの春に「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」を立ち上げ議論を始めている。抗菌薬など基本的な医薬品の国内生産回帰を目指す動きも出始めている。一方、これらの動きは薬価や国民医療費にも影響する。医薬品安定供給を目指した動きには引き続き注目していきたい。

具 芳明(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長)[AMR対策]

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