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【識者の眼】「ACP(4):救急隊員の悩み」杉浦敏之

No.5018 (2020年06月27日発行) P.60

杉浦敏之 (杉浦医院理事長)

登録日: 2020-06-01

最終更新日: 2020-06-01

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救急搬送数は自治体によって多少の差はあるが、全体として増加傾向にあると思われる。実際、当院が立地する埼玉県川口市の消防署に年代別の救急搬送数の統計を取っていただいたところ、2012年に2万1113件であった搬送数が2016年には2万3625件に増加した。4年間で2515件増加したわけだが、このうち65歳以上の高齢者が2325件増加。つまり増加したうちの93%が高齢者であった。

その高齢者に多いケースであるが、癌末期などで在宅、あるいは施設で療養中の患者が心肺停止となった時、あらかじめ現場で看取ると決めていても、動転した家族や職員が119番をしてしまうことがある。現状では、総務省消防庁の基準に定められている心肺停止時の救急隊の任務は、救命の可能性が少しでもあれば心肺蘇生を行い、確実に蘇生の可能性がないと判断された時は警察に通報するという2つしかない。現場で救命の見込みありと判断し、心肺蘇生を開始すると、看取る方針を思い出した家族が蘇生の中止を希望するケースがある。蘇生の中止を規定する法律は現時点ではないため、救急隊はその対応に苦慮してしまう。中には心臓マッサージをするふりをしながら病院に搬送した救急隊員もいるという。2019年5月に朝日新聞が都道府県庁所在地と政令指定市の52消防本部に対して行った調査では、蘇生拒否への対応を決めていたのは75%で、半数は家族を説得して蘇生を継続する方針だが、25%はかかりつけ医からの指示を受けることを条件に中止を認めていた。

東京消防庁は2019年12月16日から、①患者が成人、②終末期にある、③ACPで心肺蘇生を望まない意思を示している、④容体が本人の意思決定時に想定された症状と合致する─という4つの条件をかかりつけ医が確認できた場合、蘇生を中止できるという判断基準を設けた。終末期の患者の意向を優先させる点では望ましい方向と思われ、今後各自治体に同様の基準が広がっていくことを希望する。

M51(筆者撮影)。「りょうけん座」の銀河で地球からの距離は2300万光年

杉浦敏之(杉浦医院理事長)[人生の最終段階における医療⑤]

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