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【識者の眼】「日本の病院が危ない─病床数の適正基準とは」武久洋三

No.5015 (2020年06月06日発行) P.57

武久洋三 (医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)

登録日: 2020-05-18

最終更新日: 2020-05-27

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日本の医療は病院が中心を担っている。2019年12月末の病床利用率が71.7%で、約30%が空床である。一般病床に限っては、病床利用率が62.0%で、約40%が空床である。また高齢者がどんどん増加しているにも関わらず、入院、外来ともに受療率は全体的に低下傾向であり、特に65歳以上で顕著であることが分かっている。しかも、全国公私病院連盟が実施した「令和元年病院運営実態分析調査」によると、赤字病院割合は70.9%であった。このうち、自治体病院では88.9%が赤字である。

さらに、消費税の増税に新型コロナ旋風である。感染対策などにかかる費用も莫大で、患者の入院費を3倍にしてくれても収支は追いつかない。新型コロナウイルス陽性患者の入院は増えているが、逆にむしろそれ以外の入院患者は減っているし、不急の手術も延期されている。さらに新型コロナウイルスの院内感染が発生し、職員や他の患者に広がっていて、業務のやりくりが大変である。公的医療機関がその役を主に担っている。民間病院は新型コロナウイルス陽性患者に積極的には関わっていないが、入院患者や職員のクラスター感染により、運営が厳しくなってきている病院も多く出てきた。そうでなくても病院の空床がどんどん増えている。空床となると、1床当たり2万円/日〜10万円/日くらいの収入が減少する。急性期病院では20%以上、慢性期病院では10%以上が空床となれば、赤字になることは必定である。さらに外来患者も大幅減である。民間病院は赤字が続けば倒産である。

今まで国は現在の病院病床数を過剰であると認め、地域医療構想を掲げ、15万床以上の病床を減らそうとしてきた。現在は感染症病床の患者は増えても一般病院の患者は減少して、市中病院の経営はますます赤字が拡大している。こんな状態なのに、国は「これ幸い」と病床削減を進めるのだろうか。その前に病院の倒産が進むだろう。

果たして病院病床数はいったいどのくらいが適正な基準なのか。国は、新型コロナ旋風の一方で、空床が増え続けている現状から、事態が落ち着いたら、もっと病床を減らそうと動き出すのだろうか。そうなると、まさかの不測の事態が生じた場合に対応できるのであろうか。

武久洋三(医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)[新型コロナウイルス感染症][赤字経営拡大]

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