株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「契約書からリスクをコントロールする」川﨑 翔

No.5015 (2020年06月06日発行) P.64

川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)

登録日: 2020-05-15

最終更新日: 2020-05-15

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

弁護士が受ける業務の一つに契約書のチェックがあります(ちょっとカッコよく契約書レビューと呼ぶこともあります)。「大手企業が出している契約書だから問題ないだろう」は誤りです。もちろん、大手企業が出してくる契約書案に、明らかに違法な条項が含まれていることはまれでしょう。 しかし、先方も契約上のリスクを洗い出し、できうる限り契約上のリスクを低減する措置を講じています。法務部を持っているような大手企業であればなおさらでしょう。私自身、ベンチャー企業の法務サポートをしている案件では、新規事業の契約書や利用規約をつくる上で、リスクコントロールに最も気を使っています。

極端な例ですが、クリニック開設にあたり、長期間の定期借家契約を締結させられていたというケースの相談を受けたことが複数回あります。定期借家契約に関する詳細は割愛しますが、①原則借主側から解約できない(解約しても、残期間の賃料支払義務がある)、②契約期間終了後は原則として退去する(契約の更新はしない)─という条項になっていることが一般的です。

つまり、【付近の賃料相場や立地】といったメリットと【解約や更新ができないこと】のリスクを天秤にかける必要があるのです。上記の例で相談があったクリニックは、そもそも解約や更新ができないという点を十分に認識しておらず、リスクコントロールが全くできていませんでした。 契約締結前に契約書のレビューをしておくことは、適切なリスクコントロールという観点からきわめて重要であることがお分かりいただけると思います。

ただし、「条項の確認」だけを弁護士にまかせても、十分なリスクコントロールができるとは限りません。この契約がクリニックにとってどのくらい重要で、どの程度のリスクであればとることができるのかという点がわからず、違法か適法かという判断にとどまってしまう可能性があります。

メリットとリスクを天秤にかけるという観点からは、クリニックの状況を十分に認識しているということが必須です。先ほどの事例でいえば、「どうしてもこの立地で開業したいので、定期借家契約は致し方ないが、他の条項について交渉してリスクを低減できないか」と考える状況なのか、「あえて定期借家契約を結ぶほどの物件ではない。他の物件も見て、開業の計画をもう一度見直そう」という状況なのか、という違いがあるでしょう。

日ごろからクリニックの状況を理解し、アドバイスしてくれる弁護士がいると安心だと思います。

川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top