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【識者の眼】「貧困に気づいたら治療だけでなく社会とつなぐ視点を」西村真紀

No.5000 (2020年02月22日発行) P.62

西村真紀 (川崎セツルメント診療所所長)

登録日: 2020-02-20

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さてSDH(social determinants of health、健康の社会的決定要因)についての第2回目は貧困をテーマに考えたいと思います。通院中断、健診未受診、ワクチン未接種など、貧困を理由に受診ができていない患者さんに出会うことは少なくないと思います。しかし健康格差は受診の有無以前に発生しています。SDHを考える時、疾病の原因の上流を探る視点が重要です。ある人が心筋梗塞で救急外来に運ばれてきました。幸い治療が成功し退院となりました。なぜこの人が心筋梗塞になったのかの原因をたどっていくと、コントロール不良の糖尿病、通院中断、偏った食生活、運動不足、過酷な労働、低賃金の問題がありました。心筋梗塞は治りましたがこの人をまた同じ生活環境に戻して良いのでしょうか?貧困や労働への対応が必要であることは容易にわかります。

SDHに関するエビデンスでは、喫煙率、炭水化物に偏った食生活、運動不足、糖尿病、高血圧、気管支喘息、COPD、うつ、う歯が貧困層に多いと言われています。私たちが貧困を直接解決するのは困難ですが、まずはメディカルソーシャルワーカーを通じて社会制度の利用を検討することができます。

子どもの貧困と健康の関係は深刻です。日本の子どもの貧困率は13.9%で、およそ7人に1人の割合です。貧困な家庭で育った子どもは、う歯、肥満、湿疹、発達障害、ワクチン未接種のリスクが高く、低年齢での出産やひとり親率も高く、子どもの貧困は高齢になったときの残存歯数、うつ、要介護率にまで影響していると言われています。貧困は教育の格差を生み、子どもが社会に出た時の就労困難による貧困の連鎖へとつながります。健康に対する関心や教育も不十分なまま子どもが大人になると、生活習慣病、健診未受診、ワクチン未接種などの問題が次世代にも生じます。この負の連鎖を絶つために私たち大人がすべきことは、子育て支援センター、子ども食堂/寺子屋など、行政やボランティア団体と連携することです。

以上のように診察室で貧困に気づいたら、疾患の治療だけでなく社会とつなぐ視点を心がけて欲しいと思います。

西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)[SDH②][健康格差][貧困]

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