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【識者の眼】「合理的配慮の義務化による混乱を懸念」平川淳一

No.5000 (2020年02月22日発行) P.60

平川淳一 (平川病院院長、東京精神科病院協会会長)

登録日: 2020-02-20

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精神障害者や精神科病院が差別を受けていると感じるのは私だけではないと思う。差別には合理的配慮の否定も含まれることが「障害者の権利に関する条約」(以下、障害者権利条約)第2条に書かれている。単に「合理的配慮」という日本語からイメージすると、「障害のある人に行政や企業の方が一方的に最大限の配慮をしなければいけない」ということを連想し、これを義務化するとなると大変な混乱が起きることが懸念される。

たとえば、障害者差別解消法の見直しに向けて今年度議論している内閣府の障害者政策委員会では合理的配慮の1例として、パニック障害の患者が外来待ち時間を待てないで発作を起こしてしまわないように順番を早めるなどという例文が案として上がったことがあった。精神科外来で、このようなことが義務化されれば、多くの患者が順番を早くしろと受付でパニック発作を起こしたり、大声で詰め寄るだろう。しかし、合理的配慮は障害者権利条約において、「障害者が他の者との平等に全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものである」と規定している。なかなか難解な表現であるが、英語ではreasonable accommodationであり、accommodationは調整や適応という意味合いが強い。内閣府障害者政策委員会の石川准委員長は、障害者側にも、企業(行政)側にも無理のない範囲で建設的対話を義務づけるという方向で調整したいと発言している。同委員会の玉木幸則委員は、合理的配慮を「理にかなった工夫の積み重ね」と説明し、話し合いを続けることを義務化すべきと発言している。誠に、的を得た表現である。

過去に、個人情報保護法が施行され、本来は、個人情報の活用のための法整備であったにもかかわらず、何かにつけて個人情報だからと人権侵害にならぬように、逆に利用が制限される経験をすることが多い。今回の合理的配慮もそのようにならないように、名称の変更などすべきと考える。

平川淳一(平川病院院長、東京精神科病院協会会長)[障害者権利条約]

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