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【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症はSARSに類似(2)─インフルエンザに比べはるかに重い疾患」菅谷憲夫

No.5001 (2020年02月29日発行) P.56

菅谷憲夫 (神奈川県警友会けいゆう病院感染制御センターセンター長・小児科、慶應義塾大学医学部客員教授、WHO重症インフルエンザガイドライン委員)

登録日: 2020-02-18

最終更新日: 2020-02-18

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新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)は国内での流行も危惧される状況になった。国内での人から人への感染が進行しているにもかかわらず、日本政府が中国からの入国を禁止しなかったことは、COVID-19の感染性、重症度を過小評価した重大な失策と考えられる。すでに水際対策の段階は越えて、日本各地にウイルスが蔓延している可能性がある。

常識に反した報道

日本のマスコミが一貫して、重症度は低いと報道してきたことも、わが国の対策の遅れに影響したと考えられる。国内初のCOVID-19死亡例が報告された2月13日以後も、依然としてマスコミで流れているのは、COVID-19は季節性インフルエンザ程度の感染症であり、恐れることはないという論調である。これは明らかな誤りである。

常識で考えても、季節性インフルエンザ程度の死亡率、重症度の疾患であれば、世界保健機関(WHO)が非常事態宣言をすることはないし、中国が莫大な経済的損失にもかかわらず、大規模な都市封鎖を実施するわけがない。米国、シンガポール、台湾等では、中国からの入国禁止を実施しているが、常識で考えれば、季節性インフルエンザ程度の感染症でこのような対策がとられるわけがない。

COVID-19と2009年ブタインフルエンザ(H1N1pdm09)

死亡率は現時点で、中国全体では2%程度であるが、湖北省を除いた中国では、0.2%と10分の1程度に低下する。2009年のブタインフルエンザのパンデミックで、日本では2000万人以上の患者発生があったにもかかわらず、わずか200例の死亡者しか報告されていない。死亡率は0.001%、10万人に1人に過ぎない。湖北省を除いた中国のCOVID-19の死亡率0.2%は、2009年のH1N1パンデミック時の日本の死亡率に比べて200倍高い。

COVID-19とスペインかぜ

世界史上、最大の死亡者が出た感染症は、1918年のスペインかぜ(インフルエンザのパンデミック)であった。この時の死亡率は、欧米や日本では1〜2%程度であった。日本では、当時の人口5400万人の約半数が罹患した。内務省の1917〜19年までの報告では、2380万人が罹患して、38万9000人の死亡が報告された。死亡率は1.6%である。現時点でのCOVID-19の死亡率は、中国全体で2.2%であるが、前回(No.4998「新型コロナウイルス感染症はSARSに類似、厳重な警戒が必要」)に書いたように、「それをもって、COVID-19の死亡率が低いと報道されているのは誤りである。1918年の悪名高いスペインかぜの死亡率は、欧米諸国や日本では、1〜2%であった。COVID-19の死亡率は、スペインかぜ並みに高いと報道するのが、医学的に正しい」ということになる。

COVID-19、日本の重症例(厚労省ホームページ2月14日)

2月13日に日本で初めて死亡例が確認されたが、日本国内の発症例30例でみると、3.3%(1/30例)の死亡率となる。さらに、ICUに収容されて人工呼吸器で治療されている重症例も、札幌、和歌山などから報告されているので、重症化しやすいことが示唆されている。横浜のクルーズ船の218症例では、現時点では死亡例は出ていないが、少なくとも2例のICU入院患者が報告され、他に8例の重症者がいる。ここでも、重症化しやすい感染症であることが明らかで、季節性インフルエンザと同等の重症度とは思えない。2月14日現在、日本の全症例248例では死亡1例で、率にすると0.4%となる。

スペインかぜでも、少なくとも80%の患者は普通の、いわば軽症のインフルエンザの経過であったと言われている。日本国内で40万人近い死亡者が出たスペインかぜであっても、80%の患者では軽症であった。COVID-19で軽症が多いのは不思議なことではないし、安全安心情報ではない。軽症の患者群から、感染が拡大するからである。WHOの推測ではCOVID-19感染者のうち、①82%が軽症、②15%が重症、③3%が重篤と報道されている(https://www.bbc.com/news/health-51048366)。
3%の患者が重篤になる感染症を、季節性インフルエンザと同等とすることはできない。

COVID-19と季節性インフルエンザ

季節性インフルエンザでの死亡は、ほとんどが高齢者である。日本の人口動態統計でインフルエンザ死亡をみると、インフルエンザ患者数が多かった2018年には3240人の死亡数であり、その年の患者数は、約1500万〜2000万人と報告されているので(https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1718.pdf)、それを分母にすると、0.016〜0.022%の死亡率となる。湖北省を除いた中国の死亡率0.2%は、日本の季節性インフルエンザの10倍の死亡率となる。ただし、この0.2%は、中国政府による、徹底的な外出禁止、映画館、劇場、食堂の閉鎖、都市全体の封鎖により患者発生を抑え、医療体制を十分に整えて達成された数値である。現状の何ら対策のない日本では、さらに高い死亡率になる可能性がある。

COVID-19と医療従事者の院内感染

COVID-19がインフルエンザと比べ、はるかに深刻な疾患であることの明白な証拠は、高い院内感染率である。中国の国家衛生健康委員会(National Health Commission)は、2月14日、COVID-19により、これまでに医療従事者6人が死亡したと発表した。日本でも多数の医療従事者が毎年インフルエンザに罹患しているが、死亡例は、全国でもほとんど聞いたことがない。
武漢の大学病院でのCOVID-19患者138例の入院例の中で、57例(41%)が院内感染であることが、最近、JAMA誌に報告された。驚くべき事に、院内感染で入院した57例中40例、全体の29%(40/138例)は医療従事者であった(Wang D, et al:JAMA. 2020.)。https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2761044

高い医療レベルの大学病院でも〔ICU患者の一部を体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)で治療している事が記載されている〕、高率に医療従事者が院内感染して入院していることから、COVID-19を季節性インフルエンザ程度とみることは危険であるし、医療関係者にとって誤情報であるとも言えよう。

おわりに:オリンピックは大丈夫か?

現在、日本国内でもCOVID-19の流行が始まりつつある深刻な状況を迎えている。ノイラミニダーゼ阻害薬のあるインフルエンザと、診断キットも治療薬もないCOVID-19とは、国民、特に医療関係者の不安感は比較にならない。特に、JAMA誌に掲載された院内感染の報告のインパクトは強く、今後、国内で流行が拡大すると、多くの病院が院内感染により、機能が低下する可能性も考えられる。

先日、国際的に高名なインフルエンザ学者と話した際に、彼は、東京オリンピック開催は危ういという意見であった。夏になると、コロナウイルス、そしてCOVID-19は流行の勢いを失うからオリンピックは大丈夫という意見に対して、日本が夏になると、ブラジルやアルゼンチンなど南半球諸国は冬になり、そこで活発化するCOVID-19の流行が、選手団、観客と共に東京オリンピックに持ち込まれるのではないかという、インフルエンザ専門家らしい意見であった。オリンピックを無事に開催するためには、日本国内の流行を抑えるだけでなく、南半球での流行状況を観察して綿密な対策が必要となる。

菅谷憲夫(神奈川県警友会けいゆう病院感染制御センターセンター長・小児科、慶應義塾大学医学部客員教授、WHO重症インフルエンザガイドライン委員)[新型コロナウイルス感染症(COVID-19)]

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