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【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症:『怪しい民間療法』と『不安・恐怖』は表裏一体」大野 智

No.5001 (2020年02月29日発行) P.59

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2020-02-14

最終更新日: 2020-02-14

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新型コロナウイルス感染症の話題が、連日テレビのトップニュースで報道されている。そして、国民感情としては、パニックとまではいかなくても浮足立っている状況になっているのではないだろうか?

このように国全体が不安に襲われているような状況に際して、きまって便乗してくるのが、怪しい民間療法である。「ニンニクを食べると感染予防になる」「ゴマ油を塗ると予防できる」など根拠のない大量の情報が拡散している現状を、世界保健機関(WHO)は「インフォデミック(Infodemic:情報の伝染という意味のinformation epidemicを短縮した言葉)」と指摘している。

今回、なぜインフォデミックのような状況が起こるのか、そして解決策はあるのかについて考えてみたい。

まずは、民間療法で商売をする立場の視点で考えてみる。健康に良いとされる商品の販売方法にはパターンがあるとされる。①ものごとに白黒つける・単純化する、②感情を揺さぶる(不安・恐怖)、③都合よく願いを叶える商品の販売─といったものである。具体的には、「年をとると免疫力が下がる(①単純化)」「免疫力が下がると病気になる(②不安・恐怖)」「このサプリを飲んで免疫力をアップして病気知らず!(③都合よく願いを叶える)」となる。そもそも「免疫力」という言葉そのものが医学用語ではないのだが、商業用にキャッチーなフレーズとして広く受け入れられている現状がある。そのほかにも「アンチエイジング」「腸活」など類似のフレーズは枚挙にいとまがない。つまるところ、多くの民間療法は、人の不安や恐怖といった感情と抱き合わせで販売されている。そこで、新型コロナウイルス感染症の報道が繰り返され、国民の多くが不安や恐怖に襲われている今のような状況は、商売をする側からすれば絶好の機会になるわけである。

次に、情報の受け手であり消費者にもなりうる立場で考えてみる。行動経済学分野におけるプロスペクト理論では、人は損失を回避する傾向(損失回避バイアス)があり、危機的状況に置かれるとリスクテイカーになることが指摘されている。新型コロナウイルス感染症に関して言えば、国民の多くが、少しでも感染を避けるための行動をしやすい傾向にあり、不確かな情報であっても試してみようという傾向(リスクテイカー)に陥っている可能性がある。

では、民間療法側に有利で国民側に不利な状況における解決策はあるのだろうか? 筆者自身、「怪しい民間療法にだまされないためには、これだけ注意すれば大丈夫!」といった特効薬のような解決策は残念ながら持ち合わせていない。ただ、解決策の一つになるのではないかと期待していることはある。

2017年に東京都が報告した「健康と保健医療に関する世論調査」によると、健康や医療に関する情報の入手方法は「テレビ」が78%と圧倒的な割合を占めている。つまり、テレビを通じて、新型コロナウイルス感染症に関する正確な情報がわかりやすく解説され、世の中に出回っている不確かな情報に関する注意喚起が繰り返し伝えられることで、怪しい民間療法に騙される国民が減るのではないかと考える。地味で退屈な報道になってしまう(視聴率もとれない)かもしれない。しかし、視聴率重視で国民の不安を煽るようなセンセーショナルな報道は、怪しい民間療法に騙される国民を増やすことに加担しているということにもなりかねない。他人任せの解決策になってしまうが、メディアの矜持に期待したい。

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法]

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