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【識者の眼】「『自分ごと』を増やそう」古屋 聡

No.4999 (2020年02月15日発行) P.63

古屋 聡 (山梨市立牧丘病院)

登録日: 2020-02-14

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特にここ数年の日本では、災害がいつどこでどのように起こるか読めない不透明感が増している。これまでは予想もしなかった地域や地区での被災が相次ぎ、しかもそれぞれの個別の状況は実はよくわかっていない。東日本大震災、熊本地震、その間現在に至るまでいくつも災害が続いたが、2018年の西日本豪雨災害の頃より、世間の災害に対する反応に変化が生じているように感ずる。それは「他人ごと化」である。

SNSなどで多くの情報を即時に受け取れる現在は、「誰かが楽しんでいる」「誰かが苦しんでいる」状況を同時に検知できる。しかし、募金やボランティアまで考えなくても、「他人のつらいこと」すべてに反応できないのは当然であるし、自らの日々の生活は喜びや悲しみとともに流れているので、他人ごととしてスルーしていくのは仕方のないことと言える。

台風19号で被害を受けた福島県いわき市の避難所で12月に2人目の死者が出て市が対応を強化する、というニュースが福島で流れた。これは全国的には報道されていないし、いわき市内でもニュースにならなければ避難所の状況はそれほど知られることはない。台風19号では、山梨県との県境に近い神奈川県相模原市でも、その避難者の具体的困窮状況は、外部の自分たちには無論のこと市内の専門職にも伝わらなかった。

「地方自治の原則」と「個人情報の保護」は大切で、住民そして被災された方々は、ある種乱暴な「外部支援」によってかき回されないことは重要である。しかし、「困った人」「困ったこと」は地域でちゃんと見えているか?

台風15号による被害が大きかった千葉県南房総地域でもたくさんの「困った」在宅被災者の方が出ていると思うが、その現在の状況は世間には知られにくい。災害関連であっても、要配慮者・要支援者の具体的支援はあくまで「市町村案件」で、実は平常業務の延長である。「報道が入らない」ところには「その現実がないように見えてしまう」現在、「困りごと」を検知するのも災害時要配慮者に対応していくのも、「地域のチカラ」であり住民の「自分ごと」意識である。専門職である医療者にも、住民としての「自分ごと」視点が大いに求められている。

古屋 聡(山梨市立牧丘病院)[災害医療]

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