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【識者の眼】「新型インフルエンザの教訓から学ぶ新型コロナウイルス関連肺炎の診療体制」和田耕冶

No.4997 (2020年02月01日発行) P.55

和田耕冶 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)

登録日: 2020-01-24

最終更新日: 2020-01-24

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国内での新型コロナウイルスの診療体制が今後議論の対象になるでしょう。臨床像や治療に関しての情報はまだ不足しています。重症度については海外からの情報があったとしても国内での事例がある程度蓄積されないと、確信には至らないでしょう。

2009年の新型インフルエンザ流行時の対応においては、発熱相談センターと呼ばれる電話によるトリアージや医療機関の調整が行われました。しかし、想定と違って、例えば大分県では初期の67日間の相談件数6156件のうち、発熱などの症状がある受診の相談は1割だったという報告があります。電話の対応の負担はかなり重く、保健所などでは本来の業務ができないということもありました。また、「発熱」という名称を途中でインフルエンザ相談センターと変えた自治体もありました。電話相談は、ある一定の効果はあったかもしれませんが、もう少し工夫が必要です。

国内での流行の初期は、入院勧告がなされるでしょう。感染症指定医療機関は居住地から遠いこともあるため、患者の負担が大きいです。また、軽症だった場合には入院させるのかといったことも議論になるでしょう(1月24日現在は検体採取の後は軽症なら自宅において感染予防策ができることを担保したうえで自宅安静となっています)。初期は特にPCR検査をし、場合によってはダブルチェックなどが必要となり、長い時間の待機も必要になるかもしれません。中国の方だと言葉の問題があり、不安になったり、トラブルにもなるかもしれません。

臨床の先生方にとって最も関心が高いのは、重症例です。新型インフルエンザ流行時においては海外から検査値や画像を含めた詳細の入手は困難でした。そのため当時は、厚生労働省の研究班が国内での重症例を集め、臨床医に共有をしました。もちろん重症例だけでなく、臨床像を早く共有できる体制の必要性が当時から指摘されています。今回も同様のニーズがあるはずで、対応を今から考えておきたいものです。

冬期は入院のニーズが高い時期です。こうした時期ですので、感染者がどんどん入院できる状態にはないため、自宅待機ということも考えなければなりません。家族がいる場合には、流行の初期には自宅待機による感染リスクが懸念され、こっそりホテルに移動するといったこともありえるかもしれません。受診の際にタクシーを使ってよいのかという課題もいまだ残っています(タクシー運転手の感染リスクのため)。

あとどのくらいの時間が残されているかわかりませんが、できるだけ教訓を生かしながらの検討が求められます。

【参考文献】

和田耕冶,編:新型インフルエンザ(A/H1N1).中央法規,2011.(絶版)


(著者注:2020年1月23日深夜の情報を基に執筆しました)

和田耕冶(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス]

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