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【識者の眼】「医師の長時間労働問題、実態に合わせた見直しが必要」荒木優子

No.4996 (2020年01月25日発行) P.58

荒木優子 (共永総合法律事務所・弁護士)

登録日: 2020-01-22

最終更新日: 2020-01-21

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今、厚生労働省の検討会を中心に医師の働き方改革について議論がされています。いわゆる過労死基準と言われる時間外労働は、1カ月あたり100時間(発症前1カ月間)または80時間超(発症前2カ月間ないし6カ月間)です。

日本外科学会会員の労働環境に関するアンケート調査(2012年度)によれば、大学病院の外科医の1週間当たりの“平均”の労働時間は、約95〜98時間にも及びます。月の労働時間に換算すると411〜425時間となり、時間外労働は1カ月当たり230〜250時間にも及びます。過労死基準の2〜3倍の時間外労働が“平均”という現状です。

医師の労働時間が長時間に及ぶ要因の1つに、当直勤務があると考えます。日勤+当直+日勤という勤務で、当直を挟む労働時間は、連続30時間を超えるという医師も少なくないと思います。

看護師は2交代制または3交代制勤務であるのに対し、医師はほとんどの病院において交代制勤務ではなく、夜間の勤務は当直となり、終業時間後から翌日の始業時間までの16時間前後の当直勤務となることを、不思議に感じたことはないでしょうか。当直勤務に対する対価は病院ごとに異なると思いますが、常勤先の場合、当直手当は2〜3万円/回という場合も少なくないと思います。

このような当直勤務は、労働基準法では宿直と呼ばれ、日直と合わせて宿日直と呼ばれています。宿日直は、断続的な業務について労働基準監督署長の許可を受けた場合のみ認められ、労働時間に関する規制の適用が除外されています(労働基準法41条3号、同法施行規則23条)。

そのため、宿日直業務の勤務態様は、常態としてほとんど労働する必要がない勤務で、宿直の場合は、夜間に十分な睡眠が取り得ることが必要です。当直は、いわゆる「寝」当直が基本で、常態として日勤と同様に入院患者や外来患者の診療を行い十分な睡眠が取れない当直は、当直の時間帯全てを労働時間規制が及ぶ労働時間として扱い、法定の割増賃金を支払うことが必要です。

医師の長時間労働の問題について、実態としてハードな勤務であることも多い当直業務が、ほとんど労働する必要がない勤務として扱われていることを見直すことが必要だと思います。

荒木優子(共永総合法律事務所・弁護士)医師の働き方改革

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