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【識者の眼】「新型コロナウイルス(2019-nCoV)案件、今後の注目点〜北京におけるSARSの対応経験から」勝田吉彰

No.4996 (2020年01月25日発行) P.57

勝田吉彰 (関西福祉大学社会福祉学研究科教授)

登録日: 2020-01-20

最終更新日: 2020-01-20

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筆者は前職の外務省医務官時代の2003年に、SARS(重症急性呼吸器症候群、severe acute respiratory syndrome)のアウトブレイクに見舞われた北京で、日本国大使館医務官として情報収集や在留邦人へリスクコミュニケーションの任務にあたっていました。まったく未知のコロナウイルスが現れて何が起こる可能性があるのか─。当時と比べて今後の注目点を紹介します。なお、本稿の執筆時点(1月19日)から掲載までの数日間のタイムラグで答えが出ていたり異なる展開になっている場合も考えられますが(それぐらい速く事態は展開します)、ご了解下さい。

1. スーパースプレッダーが現れるか否か

1人の感染者から、より多くの健常人に感染させる“スーパースプレッダー”。この出現の有無で、感染者数はもとより報道量もガラリと変わります。これまでのコロナウイルス案件、SARSやMERS(中東呼吸器症候群、middle east respiratory syndrome)ではスーパースプレッダーの出現で社会の雰囲気が変わりました。『香港のメトロポールホテルで医師が…』『内蒙古自治区で航空機客室乗務員が…』など、今でも紙面が記憶に残る出来事です。

今回の新型コロナウイルスでは、本稿執筆時点では家族内感染が疑われるのは2例のみで、世界保健機関(WHO)の声明も「限定的なヒト-ヒト感染の可能性が示唆される」にとどまるところから始まっていますから、過去のコロナウイルス案件同様のスーパースプレッダーの出現があれば、一般社会の雰囲気の「変化率」はより大きなものになると思われます。

2. 医療従事者の感染が現れるか否か

ヒト-ヒト感染の指標になるのが「家族内感染」と「医療従事者の感染」です。現時点では、少なくとも医療従事者の感染は報じられていません。今後「医療従事者の感染」が出現する事態になれば、これも大きく社会の雰囲気を変える事態になります。SARSではこれが頻繁に発生して現場は悲壮感に満ち、中国政府は現地メディアを通じて「白衣戦士に敬礼を!」と士気鼓舞に努めていました。

3. 外国籍/著名人の感染者が現れるか否か

もうひとつ当時の北京で雰囲気が大きく変わるきっかけになったのが、「国際労働機関(ILO)要人の感染・死亡例」でした。今回も著名人・芸能人の感染が発生すれば雰囲気は一変するでしょう。

4. 春節の移動ラッシュ(春運)はどう出るか

春節期間中に増えるインバウンド旅行客による感染持ち込みに関心が集まっているように見受けられますが、実際のところ焦点はそこではありません。国内メディアが心配する、航空機で来日する中流層以上よりも深刻なのは、庶民層の帰省列車でどう拡大するか、です。筆者は北京駐在中に一度、それを経験して鉄道趣味誌に投稿するというもの好きな経験を持ちます。

異様な高密度が発生するポイントは以下の3つです。①切符売場の争奪戦、②候車室(列車ごとにわかれた待合スペース)、③車内(1列5人掛けのボックスシートに詰め込まれた出稼ぎ労働者、無座と表示された立席切符で通路まで埋まる車内)、さらに彼らが持ち込む巨大な荷物には家禽を含む食糧が入っています。この中で、どこまで拡大するのか、固唾を呑んで春節を注目しています。

勝田吉彰(関西福祉大学社会福祉学研究科教授)[新型コロナウイルス]

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