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かぜ症候群(小児)[私の治療]

No.4989 (2019年12月07日発行) P.48

宮田一平 (川崎医科大学小児科学講座講師)

登録日: 2019-12-05

最終更新日: 2019-12-04

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かぜ症候群は,上気道症状に時に発熱を伴う病状の総称である。大部分はライノウイルスなどのウイルスによって生じるが自然治癒傾向が強く,罹病期間中の苦痛の緩和が治療の主体となる。一方,上気道症状と発熱を初期症状とする疾患には別稿に挙げられている溶連菌による咽頭炎や百日咳,マイコプラズマ感染など,起因病原体に応じた対応を要する疾患,あるいはRSウイルス感染症のように患児の年齢によって注意を要する疾患もある点,クループ症候群,気管支炎,肺炎も「かぜ」と称して来診することにも注意を要する。また,上気道症状が遷延する際には,アレルギー的要因によるもの,慢性副鼻腔炎などの非感染性の疾患の鑑別も必要である。

▶診断のポイント

一般に,初診時の全身状態は悪くなく,入院を考慮するほどの重症感を伴わない。咽頭所見や全身状態から溶連菌感染,アデノウイルス感染,インフルエンザ感染を疑う場合は,迅速抗原検査を考慮する。

RSウイルス感染は若齢乳児においては細気管支炎に至り,時に重篤化することが知られている。詳細は急性気管支炎の稿にゆずるが,外来ではこまめに再診するとともに,呼吸促迫,経口摂取減少や睡眠困難を認める際には,高次医療機関への紹介を考慮する必要がある。

このほか,鼻症状を契機に中耳炎を併発する小児は少なくないので,小児の診察に際しては常に鼓膜所見を取ることを習慣づけておきたい。

▶私の治療方針・処方の組み立て方

対症療法が中心であり,飲食や睡眠の支障となる苦痛の緩和を主に考える。鼻汁・鼻閉が強い若齢児の場合には,鼻汁吸引の励行だけでも苦痛の緩和に有効な場合がある。薬剤を鼻汁や咳嗽,発熱の苦痛緩和を目的として処方する際には,小児は成人に比べて自身の苦痛を訴えることが困難であることに留意する。抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬は鼻汁や分泌物を粘稠にする結果,かえって息苦しさや咳き込みの激しさを増すおそれがあることも意識しておく。この系統の薬剤は中枢神経系においては脱抑制に働くおそれがあるため,痙攣性疾患の既往のある児への処方に際して注意を要する。古典的抗ヒスタミン薬は抗コリン作用も有するため,気管支喘息を背景に有する児に対しての使用を筆者は躊躇する。

発熱に関しても,保護者は体温の数値に意識を引っ張られがちであるので,児の全身状態の善し悪しに注意を向けるように指導しておくと,夜間の発熱に際しての保護者の不安を軽減できる。
細菌感染の予防のために抗菌薬を処方するという意見もあるが,このような効果を肯定するエビデンスはない1)2)。かぜ症候群に対して抗菌薬を盲目的に処方することは,抗微生物薬適正使用の観点からも3),厳に慎むべきである。A群β溶連菌(化膿レンサ球菌)による咽頭炎,化膿性急性中耳炎併発時以外に外来で「かぜ症候群」に対して抗菌薬を初手から処方するべき状況は少ないと考える。

また,中枢性鎮咳薬(コデイン等)は12歳未満の小児に対して禁忌であることにも留意しておく4)

▶治療の実際

対症療法が主体であり,鼻症状に対しては年齢に応じて鼻汁吸引も指示する。飲食や睡眠の支障を認める際には再診するように指導しておく。

【乳児の場合】

乳児の場合,抗ヒスタミン薬を用いるとときに眠気が強く出てしまって,保護者の不安を助長することもよく経験する。このような場面を避けたい場合には漢方製剤の麻黄湯が有用である。特に,比較的元気で全身状態が悪くない乳児の鼻症状に対して,保護者の不安が強い場合に重宝する。

一手目 :〈処方変更〉ツムラ麻黄湯エキス®(麻黄湯)0.12g/kg/日 分3

【分泌物と咳嗽が主症状である場合】

一手目 :ムコダイン®(カルボシステイン)30mg/kg/日 分3

二手目 :〈分泌物が粘稠で排出困難・喀出のために激しい咳嗽を認める場合,一手目に追加〉ムコソルバン®(アンブロキソール)0.9mg/kg/日 分3,アスベリン®(チペピジン)1~3mg/kg/日 分3併用

【発熱に対して】

一手目 :〈上記処方に追加〉カロナール®(アセトアミノフェン)10~15mg/kg/回(発熱時頓用)

ただし,6カ月未満児には用いない。

【鼻汁が症状の主体である場合】

一手目 :ペリアクチン®(シプロヘプタジン)0.1~0.3mg/kg/日 分3
水様鼻汁が非常に多い場合に考慮する。ただし,痙攣性疾患の既往のある児には使用しない

【文献】

1) Kenealy T, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2013;(6): CD000247.

2) Fahey T, et al:Arch Dis Child. 1998;79(3):225-30.

3) 厚生労働省健康局結核感染症課, 編:抗微生物薬適正使用の手引き. 第1版. 2017.

4) 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課:薬生安発0709第12号, 2019.


宮田一平(川崎医科大学小児科学講座講師)

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