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大気汚染の健康影響

No.4951 (2019年03月16日発行) P.55

島 正之 (兵庫医科大学公衆衛生学教授)

登録日: 2019-03-19

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【世界人口の92%は大気汚染濃度がWHO指針値を超える地域に居住している】

現在,大気汚染物質の中でも特に健康影響が懸念されるのは粒径2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)であり,短期的および長期的な曝露によって呼吸器疾患,循環器疾患のほか,発がんや生殖毒性などの広範な影響をもたらす。わが国では,数年前より中国からの越境汚染が注目されているが,国内のPM2.5濃度の年平均値は低下傾向にある。一方,経済成長が著しい多くの新興国においては,PM2.5をはじめとする大気汚染の深刻な状況が続いている。

WHOは,健康を維持するためのPM2.5の指針値を年平均値10μg/m3以下,24時間平均値25μg/m3以下と設定している(わが国における環境基準はそれぞれ15μg/m3,35μg/m3以下)が,2016年に世界人口の92%は大気汚染濃度が指針値を超える地域に居住していると警告した。また,12年には全世界で大気汚染によって300万人が死亡したと推計し,健康に対する最大のリスクであるとしている。死因別には,慢性閉塞性肺疾患(CO PD),肺癌,虚血性心疾患,脳卒中が多く,5歳未満の小児では急性下気道疾患のリスクも高い。

WHOが公開している世界の主要都市における大気汚染データベースでは,PM2.5の年平均値の最高はザーボル(イラン)の217μg/m3,2番目はグワーリオル(インド)の176μg/m3であり,アジアの新興国における濃度がきわめて高い。社会や経済のグローバル化に伴って,海外への旅行や赴任の機会が増加している。海外では事件,事故への遭遇,感染症の罹患などのリスク対策に加えて,新興国においては大気汚染への対策も考慮すべきである。

【解説】

島 正之 兵庫医科大学公衆衛生学教授

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