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【医院建築探訪(3)〈浅野医院 (横浜市)〉】旧院の家庭的で入りやすい雰囲気を受け継いでいきたい

No.4936 (2018年12月01日発行) P.14

登録日: 2018-11-30

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吹き抜けの効果で面積以上に空間の広がりを感じる待合室。白基調のインテリアのアクセントとして、院長(父)の好きな緑色の椅子を配置した

事業継承や施設の老朽化によるクリニックの建て替えは、多くの場合困難を伴う。同一敷地内での建て替えが難しい都市部においては、仮設用地の確保や移転中の経営面でのリスクなどハードルはさらに高まる。連載第3回は、こうした課題をハウスメーカーの提案で克服し、地域のかかりつけ医として誰もが入りやすいクリニックを目指して、建て替えを行った実例を紹介する。【毎月第1週号に掲載】

横浜市保土ヶ谷区にある浅野医院は、開業して約40年の住宅併用クリニックが老朽化したため、近い将来の事業継承を見据え、2014年に建て替えを行った。しかし通常の建て替えとは少し事情が異なる。

同一敷地内での建て替えではなく、隣地に建設用地を確保できることになったため、旧院で診療を継続しながら、その一部を解体・整地して新院を建設。新院完成後に医療機器や設備などを移行し、旧院を完全に解体して、2代目院長を継ぐことになる現在副院長の浅野毅弘(写真)さんの自宅を建設したという特殊なケースだ。

開放感のある吹き抜けの待合室

建て替え後の浅野医院の特徴は、横浜市郊外の住宅密集地という限られた立地条件で、地域のかかりつけ医として必要な機能・設備と居心地を両立させた設計の妙にある。
建築面積を確保するために、隣接する公園の敷地特性に着目し、建築基準法のいわゆる“角地特例”を活用。通常は建ぺい率60%のところを70%にまで引き上げ、1階は床面積約100㎡の計画となった。

空間で印象的なのは開放感のある吹き抜けの待合室(写真上)。開口部からの採光が心地良く、外観からは想像できないゆとりのある明るいスペースが広がる。

「以前のクリニック(写真1左)は居抜きで開業したこともあり古い建物だったので、待合室がとても狭く、混んでいるときには患者さんに外で待ってもらうことも少なくありませんでした。具合が悪いのに外で待たせてしまうのは心苦しい。待合室は可能な限り広く設け、待ち時間をできるだけリラックスして過ごしてもらえるように、面積以上に空間的な広がりを感じることができる吹き抜けにしました」(浅野さん)

機能面では動線計画を重視し、診察・処置・検査ゾーンを一列に配置(写真2)。スタッフと患者の動きが極力交差することのないように工夫している。院長室やスタッフルーム、カルテ庫などバックヤードは2階にまとめた。

小児科も標榜しているため、エントランス脇には 半個室のキッズスペース(写真3)を設置。待合室があまり騒がしくならないように配慮している。

行政との事前折衝で法的課題をクリア

浅野医院の設計・建設を手がけたのは、三菱地所 ホーム(https://www.mitsubishi-home.com/clinic/)。医院建築には「ドクターズ・プロジェクト」というシステムがあり、新規開業や建て替え、移転などに関して、各分野の専門家によるコンサルティングなど施主に対するサポート体制が充実している。また浅野医院ではウイルスや菌が蔓延する恐れがあるため導入していないが、1台の室内機で住宅全体を快適な温度に保つ全館空調システムをいち早く導入したハウスメーカーとしても知られる。

浅野さんが三菱地所ホームをパートナーに選ぶまでには、都市部でのクリニック建て替えの難しさを物語るような紆余曲折があった。

建て替えに当たり浅野さんが重視したのは、地域のかかりつけ医として、現在通院している患者さんの診療を継続しながら、できるだけ近くに新院を建築するということ。そのため数年前からほど近い場所に建設用地を確保していた。別のハウスメーカーに設計を依頼し、間もなく着工という段階になって、ある事情からその場所での医療機関の建設が困難となり、両親の自宅に計画を変更せざるを得なくなった。

「しばらくして旧院の隣地を取得できることになったのですが、そこに新院を建てるには手狭だったため、解決策を数社に相談しました。三菱地所ホームさんからは、旧院の一部を解体して整地し、取得した隣地と併せて新院を建てることが可能、という提案を受けました。本当にそんなことができるのかと思いましたが、『旧院での診療に支障なくできます』という明確な返答だったので、お願いすることにしたのです」(浅野さん)

工事中は一部解体した旧院が一時的に既存不適格建築物となるなど現行の建築基準法に抵触する建築計画になってしまうため、三菱地所ホームの設計士が建築確認申請前に行政との折衝を行った。中間検査や最終検査の各段階で法的基準をクリアするという条件で調整を図り、建築の許可が下りたという。隣地への移設に伴う指定保険医療機関登録手続も必要となったが、三菱地所ホームの担当者が関係各所との調整を丁寧に行い、スムーズに移行することができた。

浅野さんはハウスメーカー選びにおけるポイントについてこう語る。

「医院建築は一般住宅に比べて、建築基準法以外にも遵守しなければならない関係法令や診療所開設届の提出など必要な手続きが多くなります。特に建て替えにおいては、これらの問題を踏まえた実効性の高い提案力が大切になると思います」

父が築いた信頼関係を受け継いでいく

浅野さんが地域のかかりつけ医として心がけるのは、父が開業した1976年から築き上げてきた住民との信頼関係を変わらずに受け継いでいくことだ。新院では、電子カルテや予約システムを導入するなど、利便性の向上を図る一方、旧院の家庭的な雰囲気を残すことにこだわった。

「かかりつけ医の役割の1つは困っている人の相談に乗ることだと考えています。そのために新院は、クリニックらしくない外観や吹き抜けの待合室など誰もが入りやすく、居心地の良いクリニックを目指しました。私の代になっても、これまで通院していた人に父と同じような医療を提供していくことが目標です」

 

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