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■NEWS 虚偽論文「新たな立法措置等が考えられる」―ディオバン論文不正事件の控訴審判決・第二報

No.4936 (2018年12月01日発行) P.18

登録日: 2018-11-20

最終更新日: 2018-11-20

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既報の通り、ノバルティスファーマ社の降圧薬バルサルタン(商品名:ディオバン)の論文不正事件で、薬事法(現・医薬品医療機器法)違反(虚偽広告)の罪に問われたノバ社の元社員と同社の控訴審判決が19日、東京高裁(芦澤政治裁判長)であり、無罪とした一審東京地裁判決を支持、検察の控訴を棄却した。判決では、虚偽の情報を研究者に提供し、それに基づいて学術論文を発表させる行為について「新たな立法措置等で対応することが考えられる」と指摘している。

■虚偽論文を作成させたとしても薬事法違反には当たらない

芦澤裁判長は判決の理由について、薬事法66条1項が規制している虚偽または誇大な記事の「広告」「記述」「流布」は、立法の沿革や実際の運用などから、「広義の広告を規制する趣旨」と解釈し、広義の広告の3要件として、①認知性、②特定性、③誘引手段性―を列挙した。このうち誘引手段性については、「客観的誘引手段性:当該告知行為が、その内容や体裁等からみて顧客誘引の手段としての性質を有していること」「主観的誘引手段性:行為者において、当該告知行為自体を、顧客誘引の手段とする意思があること」の両者が必要とした。

これらを踏まえ、論文を学術雑誌に掲載させるなどした行為は「論文の内容や体裁、同雑誌の性格等からして、客観的誘引手段性を備えていない」と指摘。さらに、「被告会社(ノバ社)は、論文を学術雑誌に掲載させた後に、それを利用して、広告資材を作成し、同資材を用いて広告活動を行っているのであり、学術雑誌への掲載は、全体からいえば広告の準備行為として位置づけられる」として、主観的誘引手段性も認められないとした。

その上で、「たとえ、被告人(元社員)が自ら作成し、研究者らに提供した図表等のデータが虚偽のもので、被告人が研究者らを情を知らない道具として利用して、同データに基づき内容虚偽の論文を作成させ、本件各学術雑誌に投稿させて掲載させたとの事実が認められるとしても、被告人の行為は薬事法66条1項違反には当たらない」と判断し、無罪とした一審判決について「正当として是認することができる」と結論づけた。

■学術論文について薬事法で対応することは無理、何らかの規制が必要

なお、一審判決では、元社員がディオバン群を有利にするためにデータを改竄したなどの公訴事実を認めたが、芦澤裁判長は、不正の事実認定には踏み込まなかった。

芦澤裁判長は判決の最後に「医薬品等に関わる分野で、研究者に故意に虚偽の情報を提供し、それに基づいた学術論文を作成、発表させるような行為は、その弊害に鑑みて、何らかの規制をする必要がある」と述べた。さらに「学術論文について薬事法66条1項で対応することは無理があり、この問題は本法の改正法である医薬品医療機器法66条1項にも引き継がれているとみられる」として、「新たな立法措置等で対応することが考えられる」と指摘した。

判決を受けてノバルティスファーマ社は「この問題の本質は、法的な問題にとどまらず、医師主導臨床研究において弊社が適切な対応を取らなかったことにあると考えており、社会的・道義的な責任を感じている」とのコメントを発表した。

◎臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)の桑島巖理事長の話

不正論文を使って広告しても法律違反にはならないという前例になってしまうので、不正論文に対する法律的、社会的な制裁が必要。ノバルティスファーマ社は責任を感じているならば、ディオバンによって得た利益を返すべきだ。

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