海外では,進行直腸癌に対する術前放射線化学療法(CRT)は,標準治療として位置づけられている
術前CRTは,直腸癌術後の局所再発を有意に抑制するが生存期間延長には寄与しない
術前放射線治療にはshort-course(5Gy×5回)とlong-course(1.8Gy×25~28回)があり,腫瘍の再発リスクに応じて全身化学療法を放射線照射の前(induction chemotherapy)や後(consolidation chemotherapy)に加える方法も行われている
括約筋間直腸切除術(ISR)の普及により,以前は永久人工肛門が必要であった症例の肛門温存が可能になった
腹腔鏡視下手術の普及で,肛門管近傍の直腸癌に対するより精緻な手術が可能になった
術前CRTは,局所再発率を低く抑えつつ安全に肛門温存を行うために非常に有用なオプションである反面,術後の排便機能を有意に増悪させる負の側面を持つ
直腸癌に対する手術術式としては,直腸および直腸周囲リンパ節を直腸固有筋膜と呼ばれる筋膜様結合織に包まれた状態で切除する,直腸間膜全切除(total mesorectal excision:TME)が国際標準とされている。TMEの概念がなかった1990年以前は,その手術の質の低さから直腸癌術後の局所再発率は25~40%と非常に高かった。しかし,1990年以降TMEが標準手術と位置づけられてからは,手術単独による局所再発率は10%前後にまで低下した。術前放射線化学療法(chemoradiotherapy:CRT)はこの局所再発率をさらに下げることがランダム化比較試験で証明され,以後術前CRTに関する多数の検証が海外で行われている。
術前放射線治療には大きくわけてshort-course(5Gy×5回=25Gy)とlong-course(1.8Gy×25~28回=45~50.4Gy)の2通りの方法がある。short-courseに関する代表的なランダム化比較試験としてDutch trialが挙げられる1)。腫瘍肛門縁距離が15cm以内の直腸癌を,TME単独(n=908)と,術前短期放射線治療(short-course radiotherapy:SRT)+TME(n=897)に割付けたところ,10年局所再発率はSRT群で有意に良好であったが(5% vs. 11%,P<0.0001),全生存率に有意差はなかった2)。Dutch trialではSRT終了後5日以内で手術を行うことが規定されており,局所制御は向上するものの腫瘍の縮小効果はほとんど期待できない。
一方,long-courseに関するランダム化比較試験としては,術前放射線照射単独(45Gy)と術前45Gy+5-FU(CRT)を比較し,CRTが有意に局所再発率を低下させることを証明したFFCD92033)や,術前CRT(50.4Gy+5-FU)と術後CRTを比較し,術前CRTにおいて有意に局所制御が良好であることを証明したGerman trialが挙げられる4)。以上から,long-courseについては,5-FU系の抗癌剤を加えた術前CRTが標準治療と位置づけられている。術前CRTは照射終了後6週前後の待機期間を置いて手術を行うため,腫瘍の縮小効果が得られることが多く,German trialでは病理学的完全奏効(pathological complete response:pCR)が8%にみられ,術前CRTで肛門温存が可能になった症例が,術後CRT群に比べて有意に多かったことが報告されている4)。