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(1)エコノミークラス症候群発生状況と予防活動の成果[特集:震災時のエコノミークラス症候群─実態と課題]

登録日: 2017.09.01 最終更新日: 2026.07.31

榛沢和彦 (新潟大学大学院医歯学総合研究科呼吸循環外科学分野講師)

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2. 災害後致死的肺塞栓症予防のために

1 予防検診

上記のことから,災害後の致死的肺塞栓症を予防するには,ヒラメ筋静脈などの下腿深部静脈の血栓を予防する,または小さなうちにみつけて進展予防すればよい。そのためには飲水,運動指導のほかに,ハイソックス型の弾性ストッキング着用が効果的であると考えられる。そこで,筆者らはエコノミークラス症候群予防検診として,膝窩静脈を含む下腿深部静脈のエコー検査と弾性ストッキング着用指導を行ってきた。さらに,みつかった深部静脈血栓(deep vein thrombosis:DVT)に治療が必要か否かを判断するために,血中D-ダイマー値の測定も行っている。

通常D-ダイマー値は,入院患者などの肺塞栓症の除外診断に使用される。しかし,被災者などの一般住民では,D-ダイマー値が2.0μg/mLを超えることは稀であることなどから,災害時は陽性診断として用い,被災者のD-ダイマー値が2.0μg/mLを超えた場合は,病院を受診し精査してもらうことにしている。これらは,新潟県中越地震後に被災地で多数のDVTがみつかったことから,その治療方針を「新潟県中越大震災被災地住民に対する深部静脈血栓症(DVT)/肺血栓塞栓症(PE)の診断,治療ガイドライン」(「中越メソッド」と呼んでいる)として,新潟県,新潟県医師会とで策定したものである3)。そして岩手・宮城内陸地震(2008年),東日本大震災(2011年),広島土砂災害(2014年),常総市水害(2015年),熊本地震(2016年)などで使用された。中越メソッド自体にエビデンスはないが,これまでの運用で,特に問題なく致死的肺塞栓症は予防できている。

大腿静脈のエコー検査もできればベストであろうが,オープンスペースで多数の被災者に検査を行おうとすると,下腿深部静脈の検査しかできない(ただし,膝窩静脈まで血栓があったときは大腿静脈も検査する)。また,飛行機やバス旅行などのエコノミークラス症候群の発症までの最短時間は3~4時間程度と言われているが,熊本地震では車中泊後翌日に重症肺塞栓症を発症していることなどから,エコノミークラス症候群は車中で就眠してから約6~8時間後に発症していると考えられる。血栓が短時間で大腿静脈に進展したタイミングでエコー検査を行うことは困難で,時間と労力(場所を探して下着になってもらい検査するなど)に比して,大腿静脈のみに血栓がみつかる頻度は低いと思われる。また,大腿静脈など中枢に血栓がある場合は,血栓量が多いことからD-ダイマー値が高いことが多く,肺塞栓症を合併している可能性が高い。したがって,予防的なエコー検査は下腿のみで十分と考えている(ただし,血栓陽性の場合は必ずD-ダイマー値を測定する)。

以上のことから,我々が行うエコノミークラス症候群予防検診は,今すぐ危険性のある被災者をみつけることが目的ではなく,もっと数が多い,これから危険となりうる被災者をみつけて,致死的肺塞栓症と後述のDVTによる二次的健康被害を予防することが目的である。


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