5. 診断
被災地でのDVT診断の目的は2つある。1つはPTE発症のリスクが高い中枢進展型のDVTなどを検出し,PTEによる生命の危機を回避すること。もう1つは末梢型DVTを検出することで,重症化予防を図ることである。そのために行う被災地でのDVT検診の手順は,以下の通りである。
①プレテスト(問診,視診)によりDVT発症リスクの高い被災者を抽出する。一般にDVTの確率を評価する方法としてWellsスコア7)が知られているが,被災者に対するチェックポイントとしては,脱水状態,ほとんど動かない,下肢外傷などの所見を有することや,睡眠導入剤を服用していること(東日本大震災)などがある2)。さらに,VTEの既往や担癌,車中泊,経口避妊薬(低用量ピルを含む)の服用,肥満,70歳以上などもチェックポイントに挙げられる(熊本地震)8)。
②プレテストでリスクの高い被災者には下肢静脈エコー検査を行う。医療施設外では脱衣を要する大腿部の検査は難しいため,膝窩静脈から末梢のヒラメ筋静脈,腓骨静脈,前・後脛骨静脈をそれぞれ走査する。エコー検査で血栓や深部静脈径の拡大(9mm以上)を認めた場合は,
③採血してその場でD-ダイマー値を測定し,
④状況が許せば大腿部までの走査を追加する。
この手順でD-ダイマー高値(周術期以外のD-ダイマーのカットオフ値は明らかではないが,1.0~2.0μg/mLを目安としている2)),あるいは膝窩静脈より中枢に血栓を認めた場合は,
⑤造影CT検査を行い,さらに中枢側静脈の血栓や肺動脈血栓を検索する(図3)9)。

下肢静脈エコー検査は,7.5MHzリニアプローブを用いる。断層法では高輝度(器質化血栓)や中輝度(混合血栓)で血栓像と判定できるが,赤色血栓は低輝度であるため検出されない。そこで,圧迫法による確認が必要となる。すなわち,エコープローブで静脈を圧迫すると,正常静脈は完全に虚脱するが,血栓があると虚脱しない。また,検査部位より末梢の下腿を手掌でしぼることで血流を誘発し,カラードプラ法で血栓による血流欠損を観察する10)。エコー検査では被験者を椅子に座らせると下腿の静脈を同定しやすいが,避難所などでは椅子がない場合も多いため,臥位のまま膝を立てて行う。
D-ダイマー測定は,POCT(point of care testing)機器の発達により,災害現場に携行して簡便に行えるようになった。これにより,精査を要する患者数を絞ることができ,多数の傷病者対応に追われる被災地病院の負担を軽減することができる。D-ダイマーのカットオフ値は前述の通り定まっていないが,東日本大震災後に当院に搬送されたPTE患者27人(周術期を除く)のうち,3人はD-ダイマー値が3.0μg/mL未満であったことから,スクリーニング検査としては2.0μg/mL以下のカットオフ値の設定は妥当であると考える。
6. 治療
災害時のVTEの多くは環境要因によって発症したものであるため,その環境を改善することが最優先である。ただし,それが困難な状況では,DVTの程度に応じた医療介入が必要である。しかし,災害時には提供できる医療に制約があるため,時間とともに変化する医療供給能力に応じて治療を選択することとなる。
1 弾性ストッキング着用
災害後急性期〜亜急性期のDVTは,脱水や体動制限などが要因となるため,それらの要因の解消とともに血栓が消失した例は被災地でよくみられる。それらをサポートするものとして,あるいはハイリスク者のDVT予防として,弾性ストッキングの着用は有用である11)。さらに弾性ストッキング着用下での下腿筋の運動は筋ポンプ作用の増強効果が認められる12)。弾性ストッキングと運動の組み合わせがより効果的であることを指導することが重要である。
2 抗凝固療法
症候性DVTや,検診で要精査となったDVTに対しては薬物的抗凝固療法を検討する。DOAC(direct oral anticoagulant)の適応がDVTに広げられたことで,ワルファリン以外の薬物の選択肢が増えた。被災地では通常と異なる食生活のため,ワルファリンの用量コントロールが難しいことが多い。ACCPガイドライン9版では,DOACやワルファリンによる治療を3カ月間行うことが推奨されているが,血栓が残存する場合には,6カ月間まで続けることが適当という意見も多い。器質化血栓が残存する場合は,再増悪を考慮し定期的な観察が望ましい10)。
3 血栓溶解療法,血栓除去術
下大静脈血栓や腸骨静脈血栓など広範に及ぶDVTや,広範型PTEではt-PA製剤による血栓溶解療法が考慮される。ただし,出血のリスクが高いため,そのような場合にはカテーテル下での血栓除去や外科的血栓除去を考慮する10)。
7. DVTの長期的影響への配慮
東日本大震災から6年が経過した宮城県石巻市では,DVT陽性率が7.8%(2012年)~9.2%(2016年)と高いまま推移しており,DVTは長期にわたり残存している。さらにVTE既往者では脳心血管障害発症リスクが長期間にわたって高いことが報告されている13)。震災後当院に搬送されたPTE患者27人のうち,予後が確認された20人中,癌死を除いて7人が亡くなっていることがわかった。このようにエコノミークラス症候群はいったん発症すると,長期にわたる健康リスクを有することを認識しなければならない。
●文献
1) 尾崎米厚:災害・重大健康危機の発生時・発生後の対応体制及び健康被害抑止策に関する研究支援業務報告書, 厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究 平成22年度 総括・分担研究報告書, 2011年3月,p201-27.
[http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201036001A]
2) Ueda S, et al:Tohoku J Exp Med. 2012;227(3):199-202.
3) Shibata M, et al:Phlebology. 2014;29(4):257-66.
4) von Brühl ML, et al:J Exp Med. 2012;209(4):819-35.
5) Dmitrieva NI, et al:Proc Natl Acad Sci U S A. 2014;111(17):6485-90.
6) 呂 彩子, 他:法医の実際と研. 2005;48:41-7.
7) Wells PS, et al:Lancet. 1995;345(8961):1326-30.
8) 細川 浩:治療. 2016;98(11):1833-5.
9) 榛沢和彦, 他:Ther Res. 2007;28(6):1076–8.
10) 日本循環器病学会, 他:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断, 治療, 予防に関するガイドライン(2009年改訂版).
[http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_andoh_h.pdf]
11) Sachdeva A, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2010(7);CD001484.
12) 太田覚史:静脈学. 2004;15(2):89-95.
13) Sørensen HT, et al:Lancet. 2007;370(9601):1773-9.
他科からのQuestion
Q1 DVT検診ではPTEのリスクが高い大腿部のエコー検査を優先するべきではないでしょうか?
A1 避難所環境では脱衣を伴う検査は難しいため,検診としてはまず下腿のエコー検査を行っています。下腿の静脈は血栓の発生源となるため,下腿の検診でPTEなど重症化の恐れがある被災者をスクリーニングし,さらなる精査につなげます。さらに,軽症の下腿DVTであっても,弾性ストッキング着用を意識づけさせることが二次健康被害予防に重要です。
Q2 車中泊者へのDVT対策は何を行えばよいのでしょうか?
A2 車中泊をやめてもらうことが最も効果的ですが,現実的には難しいところです。次善の策として,メディアや役所の広報を通しての車中泊者への注意喚起,DVT発症予防目的に早期の弾性ストッキング着用推進,飲水や運動の奨励などを行います。また,その前提として,車中泊者を早期に把握することが重要です。