3. 病態─DVTの形成,PTEの発症
日本人の院外発症VTEの危険因子として,長期臥床,担癌,高齢者,女性の4つが知られている。さらに災害時には,DVTの原因として知られるVirchowの三徴,すなわち①血流の停滞,②血管内皮の損傷,③血液凝固能の亢進,をもたらす状況が被災地で認められていた。災害時の避難所においては,密集状態での被災者の不動化が血流の停滞をもたらし,脱水(飲用水不足や,水があっても不潔な簡易トイレを忌避して飲水を制限することによる)2)が血液凝固能の亢進をもたらしていたと考えられる。さらに,東日本大震災では津波によって下肢に外傷を負ったDVT発症例が多く認められ,外傷による血管内皮の損傷が起こっていたと推測された3)。
このようなVirchowの三徴とDVT発生機序に関しては,近年実験モデルで説明されるようになってきた。血流の低下は血中の白血球(特に好中球と単球)由来の組織因子を介して静脈内にフィブリンを形成し,さらに血小板が好中球の集積とNET(neutrophil extracellular trap)形成によりDVTを進展させることが報告されている4)。また,脱水は血中Na濃度を上昇させ,血管内皮細胞からのvon Willebrand因子の分泌を促し,血液凝固能を亢進させることが報告されている5)。大規模災害での被災地では避難時,あるいは避難所での生活状況にDVTの発症因子があったと考えられる。このようにして形成された下腿のDVTが膝窩静脈より中枢側に浮遊血栓として徐々に進展した場合,これがちぎれて肺塞栓症を起こす6)と考えられていることから,膝窩静脈より中枢側の大腿部に認められるDVTはPTEを起こす危険性がより高いと思われる。
DVT形成には上記の要因のほかにも,先天性因子としてわが国において頻度が高いプロテインC欠乏症,プロテインS欠乏症,およびアンチトロンビン欠乏症など制御系蛋白質の異常があり,これらについての検索も,DVTの増悪や再発のリスクを知る上で必要である。
4. DVTの消長
避難所環境が改善するとともに,凝固線溶系のバランスが変化して,下腿に形成されたDVTが消失する例も認められた(図1)。その一方で,DVTが器質化し,壁在血栓や索状血栓として長期にわたって残存するという例が被災地で多く認められた。器質化した血栓に新鮮血栓を伴うような例(図2)も認められることから,血栓形成の誘因が解消されない限り,器質化した血栓を足場として,また新たな血栓が形成されるということが危惧される。

