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管楽器の循環呼吸法はどのような仕組みか? 【頰からの空気の送り出しと喉の開閉をコントロールする】

登録日: 2017.04.12 最終更新日: 2025.09.20

茂木大輔 (NHK交響楽団首席オーボエ奏者)

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管楽器奏者が「鼻から吸った空気をそのまま口から出し,音を出すので,息継ぎをせずロングトーンを出すことができる」とテレビ番組で話すのを見ましたが,生理学的にどうなっているのか理解できません。管楽器でロングトーンを出すときのメカニズムは,生理学的には実際のところどのように説明できるのでしょうか。

(新潟県 T)


【回答】

これは「循環呼吸法」と呼ばれる技術を用いています。簡単に書くならば,演奏中に頰っぺたをふくらませておき,その圧力で演奏(発音)を続ける間に鼻から呼吸(吸い込む)して,肺に入った空気をまた送り出す,ということを続けるだけです。クラシック音楽の管楽器ではどちらかというと例外的な奏法ですが,民族楽器のいくつかのものやバロック時代など古来から存在していたと聞いております。ジャズなどでも用いることがあるそうです。

現代音楽ではこの呼吸法を前提として作曲された作品(作品中,ほとんど音が途切れない)もあります。

例:ハインツ・ホリガー「多重音のためのエチュード」(無伴奏オーボエのための)〔Heinz Holliger:Studie über Mehrklänge(1971)für Oboe solo〕
[https://www.youtube.com/watch?v=cr3_fz wtfgo]

いくつかの点があって練習を要します。喉を閉鎖して肺から空気を送り出すのをやめて鼻から吸い込む,頰っぺたの圧力のみに切り替える瞬間に,音=気流が停止,または圧力が変化してしまわないようにすること。ことに初心者の場合,強い,コントロールのきかない圧力になってしまうことがあり,望まない大きな音が出てしまうと音楽を破壊することになります。練習は,グラスに水を入れて,ストローを吹き込みながら行います。具体的には頰っぺたで空気を送り出す筋肉のトレーニング(コントロール)と,喉の閉鎖・開放を自由にできるようになればよいということです。
普通の呼吸の場合よりも,管楽器(フルート以外のリード楽器)の場合には吹き込むのに抵抗がかかっていますので(出て行く空気が少ない:ことにオーボエ),頰っぺたの中の空気が鼻から吸っている間に一瞬で出て(なくなって)しまう,音が連続しなくなるというリスクはむしろ低く,普通は比較的短期間に習得できます。


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