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【私の一冊】『The Catcher in the Rye 邦題『ライ麦畑でつかまえて』』

登録日: 2016.09.08 最終更新日: 2025.09.20

岸本年史 (奈良県立医科大学精神医学教授)

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アメリカを舞台とした、1人でさまよい続ける少年の目に映じたもの、それは何か。そして、少年の夢とは、理想の大人になるには(J.D. Salinger 著、米国リトル・ブラウン社、1951年刊)

再会した書籍で実感したささやかな成長

欺瞞に満ちた大人に反発し、行き場のない孤独と怒りを裡(うち)に抱えた16歳の少年を描いた本作は、私が大学生だった1970年代の若者に大きな共感を呼んだ。私がスポーツを熱心にやっていたときにこの本に出合ったが、まったく共感できなかった。女子高生の間に私のファンクラブができていて、試合では黄色い声で応援してもらっていた。スポーツは私の密かな自信になっていた。だから主人公のホールデンとは真逆の健全すぎる屈託のない恵まれた学生で、彼の嫌いなタイプで、嫌なやつだったに違いない。

精神科に入局した私は、同期に対して劣等感を覚えた。とにかくあまり患者の話を聞くのが得意でないのである。研修医のときに救命救急センターにローテートしていなければ外科系に転科していたかもしれない。以来私が精神科に向いてないな、と思うことは度々あった。


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